くわちゃんの独り言

音楽や映画が大好きな爺さん。長年の経験から知りえたことを発信します。

モーリスラベル 研ぎ澄まされた感性のはてに

 

フランスの作曲家

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驚くほどのオシャレだったそうですよ

 

目次

 

モーリスラベルはフランスの印象派芸術家が活躍した時代の作曲家である。

彼自身は印象派でくくられることを好しとはしなかったようだが。

現在残っている様々なポートレートを見ても、驚くほどのダンディーさである。

ポーズの取り方や服装などもおしゃれであることが見て取れ、それは自他共に認めるところだったようだ。

これだけのイケメンでありながら、実は女性にはご縁がなかったようで生涯独身を貫いた。

様々な情報があるのだが、どうやら彼はゲイだったとまことしやかな噂がある。

しかしながら本人の性癖なので、彼自身の芸術にいささかのケチがつくはずもなし。

私が高校生の時分は 彼は典型的な神秘主義の人で、あまり人付き合いをしなかったようだと聞いていたが、調べてみると、彼は他の作曲家や芸術家と違ってとても人当たりが良く、常に周りの人のことを気遣う典型的なジェントルマンだったよう。

その一生は音楽に捧げたものとも言えるのだが、晩年になるに従って病弱になり、様々な身体的なトラブルを抱えることによって、必ずしも幸せな恵まれた一生とは言えなかったようだ。

ドビュッシーの盟友

同じ時期に活躍した作曲家ドビッシーとは親交が深くお互いを認め合い、尊敬しあっていたようですね。

以前、私がドビッシーについて書いた記事があるので紹介しておきましょう。

 

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 ドビッシーは女癖が悪いことでつとめて悪い評判が多かったのだが、しかしラベルとなるとすこぶる評判は良く、周りの信頼も暑かったのである。

この一見正反対の2人なのだが、実はとても気が合う仲間らしくお互いのことを尊敬しあい、認め合う良い友達関係を維持し続けていたようだ。

ことにラベルは音楽に関してはあのフォーレの手ほどきを受けて作曲を学んでいる。

 フォーレは  サンサーンスに、音楽のとりわけ作曲を学んだようだ。

フランスの音楽会ではサンサーンスがたくさんの弟子を指導した話が残っている。

私の記憶では歌劇の王ビゼーがサンサーンスの教え子である。

有名な楽曲ボレロ

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驚くほどシンプルに作り上げられた曲

このボレロは20世紀を代表する名曲だろう。

ボレロのモチーフは実に単純明快である。メロディーは2つだけ。そして特徴あるリズムは最初から最後までスネアドラムで刻み続けられるのである。

これだけシンプルなモチーフから作られるのだから曲は単純な簡単なものかと思いきや、曲を聞いたことがある人ならばそんな感想は全く持たないはず。

様々なバリエーションを組み込みながら、曲はクレッシェンドのみで少しずつ少しずつ大きく展開していくのである。

とにかく同じリズム、メロディーが繰り返されることでいながら、あれだけ複雑に壮大に作り上げられる名曲中の名曲と言っていいだろう。

様々なメジャーな曲がある中で、ラベルのボレロは間違いなく後世に残る名曲であるはずだ。

超がつくほどのヘビースモーカー

 

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くわえタバコでピアノに向かうラベル

彼が吸っているタバコはカポラルと呼ばれる銘柄である。

一般的には黒タバコと呼ばれる。タバコの葉っぱを少し発酵させて熟成させて紙に巻くのが特徴 。

奥行きのある渋い味わいだと言うことらしい。

ラベルはこのタバコの愛用者でかなりのヘビースモーカーと聞いている。

 

病魔に悩まされ続ける

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ラベル記念館の中の様子

ラベルは50歳になる前位から脳の病におかされていたようだ。

調べてみて出てきた病名は「ウェルニッケ失語症 」。

ウェルニッケは脳の側頭葉の後ろ側の部分を指す。そこは主に言語中枢とかが集中していて、そこになにがしかの病変があると失語症を始めとする病気が現れるとされる。

ラベルの場合、まず失語症が最初からあったようだ。晩年タクシーに乗っていて事故にあって症状が重くなったとされているが、事故と彼の病気は直接の関係は無いようだ。

もともとの病気がラベルの様々な能力に弊害を及ぼしていたようである。

特に記憶障害がとても大きく、また勘違いをしてしまうこともかなりあったようだ。

様々な記述を調べてみても、音楽に対するラベルの感性にはいささかの不具合もなく、その感性を受け止め表現する能力に、耐え難い障害を発生していたようなのだ。

晩年、自分自身が作曲した曲を聴いて、「とても美しい曲だ。一体誰が作曲したんだろう?」

彼が自分自身の作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聞いたときのエピソード。

また彼の晩年の作品であるが「ボレロ」を聞いた時も、「この曲を私が作ったのか?信じられない! 」

彼の様々な脳に関わる働きが著しく損なわれていても、こと音楽を感じる心だけは全く遜色なかったのだと改めて痛感する次第。

またラベルの最後が特に悲壮感が漂う。

彼は友人の勧めで脳に障害があるとの判断で、開頭手術を受けるのである。

 20世紀になったばかりの頃である。脳神経外科も今ほど発達はしていなかっただろうに。ほとんど実験的な手法で手術が行われたようなのだ。

開頭してみても特に異常があるわけではなく、結局はそのまま閉じざるを得なかった。

 1部、脳の萎縮が見つかったとのこと。

脳が萎縮するような病気だと、真っ先に思いつくのはアルツハイマー病であるが、ラベルの場合、その辺はハッキリしない。

脳の萎縮を取り戻すために生理食塩水の注入とかを行っているのである。

このあまりに乱暴な手法のせいもあったろう、ラベルはこの後、何日もたたないうちに命を落とすことに。

今なら到底考えられない。

この時代は近代の医学が発展するとは言いながら、まだ模索の段階で、多くの犠牲者が出ていたようだ。

あのアメリカの作曲家ガーシュインも脳腫瘍であったが、手術を受けた後にすぐになくなっている。悪性の脳腫瘍との事なので、おそらくグリオーマか何か。

ラベルにはそのような既往症はなかったはず。

自分自身の研ぎ澄まされた感性のみが、全く遜色なく残っているのに、その他の表現するための能力が著しく阻害されるなんて、耐え難い苦痛だったろうに。

思えば20世紀前後のフランスの作曲家たちは皆なにがしかのトラブルを体に抱えていたようだ。

あのフォーレも聴覚に障害を抱えていたらしい。

芸術家たちは、基本 幸せいっぱいの生涯を送ることがどうやら難しいのである。

しかしあの時代も、それ以前も以降も生み出された芸術作品は至高の作品たちと私は思っている。

きたるべき未来の様々な医療や哲学など、優れたものに出会うことがなかった先人たちの苦しくはかない運命に心から哀悼の意を禁じ得ないのである。

私が個人的に最高傑作と思っているラベルの楽曲である。


ボレロ(ラヴェル)