くわちゃんの独り言

音楽や映画が大好きな爺さん。長年の経験から知りえたことを発信します。

ピアノ かつて関わった古典的な楽器の再発見

 

白状すると、私は長く木材会社でサラリーマンをやっていた。

北海道の田舎の場末の工場ではあったが、およそ30年ほど勤めあげ、最後は倒産の憂き目にあったのだが。

既に10年以上が経ったので多分もう時効だと思うので、私が知っているいくつかの情報を披露するとともに、この工場で私はヤマハの下請けとしてピアノの原材料を収める仕事に従事したことがある。

この記事を書く気になったのは、実はテレビで見たスタインウェイのピアノの製造過程を紹介する番組。

ちなみに、NHKのプレミアムカフェと呼ばれる番組。

番組のレポーターをシンガーソングライターの矢野顕子さんがやっていた。

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ニューヨークにある矢野顕子さんのスタジオ

目次

テレビを見ていて昔サラリーマンだった頃を思い出し、改めて納得したのはピアノは北国の楽器だと。

ピアノは楽器の8割以上が木材でできている。

私にとっては当たり前のことなのだがピアノは木工製品。

どのような木材を、どのように吟味して使用するかでピアノの値打ちは決まる。

私がサラリーマン時代は、ピアノの心臓部品はアクション部品と言って、特に鍵盤から弦を打ち鳴らすまでが命とされていたが、正直な感想を言えばそれは思い上がりというもの。

ピアノはその全体を見るにつけ、全てにおいてものを言うのはトータルなバランス。

 1部だけをピックアップしても成り立たない。

私の会社では原材料を収めていた関係で、様々な部署があって、作業員は大体はベテランになると自分自身の技術を吹聴して回ったもの。

彼らがピアノが弾けると言う事はなかった。

木材の目利きは多少のものがあったのだろうが、音楽そのものに対する造詣は素人のレベルと言っていいだろう。

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鍵盤から弦を叩くハンマーウッドに至る部品

この部分が可動するので大切なことには間違いない。

 1番奥に見えるのが頭にフェルトを被ったハンマーウッド。

少し手前の柄の部分がハンマーシャンク。

しかし、ここだけ取り上げてもピアノにはならない。

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スタインウェイ社工場内部

スタインウェイ社の創始者ヘンリースタインウェイ 

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ドイツのハンブルク出身だがアメリカに渡ってヘンリーを名乗る

ヘンリーはドイツ語名ではハインリヒを名乗っていた。

もともとは炭焼き職人で、若い頃から培われていたのは木材を見る目利きの腕前。

炭焼き職人で森に住んでいた関係上、木材を見ただけでその中身までが判断できたらしい。

また手先が器用だったせいか、特に誰かから手ほどきを受けたわけでもないのに、ピアノを自分自身でこしらえている。

部品のひとつひとつを自分自身で考えて全て手作りしたらしい。

彼の作ったピアノがとても優れていたことが評判になり、あちこちからピアノ製造の依頼が舞い込むように。

それがスタインウェイ社の前身である。

 1840年代になってからフランス革命その他の政治情勢でドイツでピアノを作る事はできなくなり、アメリカに渡ったのである

アメリカのニューヨークでスタインウェイ社を起こしそこでピアノ製造を開始した。

第二次世界大戦後、ドイツのハンブルグでもピアノの製造を開始。

スタインウェイ社は、ニューヨークとハンブルグ両方に本社を構える。

ただし、経営が順風満帆で安定していたわけではない。

音作りの専門メーカーを自認していたスタインウェイは大量生産をよしとせず、すべての作業が手作業で注文生産を行ったのである。

当然のことながら生産台数は大きな工場を抱えているが、年間1000台を超える事は無いはず。

日本の有名なメーカーで私も関わっていたヤマハは、年間およそ10万台を生産した。

生産台数の点で言えば世界一である。

しかし在籍していた私から見て、品質の点で世界一になれた事は無いはずだ。

 ヤマハの大きな功績はピアノを一般家庭に普及させたこと。

その点では多少の評価ができる。

ただし、あえて言わせていただければ買っただけで、そのまま家に家具のように置きっぱなしのピアノは山ほどあるはず。

演奏されないピアノにどれほどの値打ちがあるのか。

スタインウェイはピアノ作りのマインドがまさに職人の領域。

良い音を作り上げるためのさまざまな工夫と努力。

それらの結晶でこの会社のピアノは成立している。

「骨盤ウォーカーベルト」

ピアノ作りのマインド

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スタインウェイ製グランドピアノ

スタインウェイ社の工場の中の見学の場面も紹介されていた。

どの部署の作業員も手作りにふさわしいそれぞれの技術で作業していたが、いくつかの気になった部分をピックアップすると、鍵盤を扱う技術者は、鍵盤の重さであったり感触であったりを一定にするために、鍵盤の一つ一つ に重りを乗せて一定になるように何度も試行錯誤を繰り返していた。

鍵盤の横には小さな丸い穴が開いていて、そこに金属の重りを出し入れできるようになっている。

またレトロなアルコールランプでピアノの弦を叩く部分、ハンマーと呼ぶのだが、そのハンマーの柄にあたる部分、これは実はハンマーシャンクと呼ぶのだが、このハンマーシャンクをアルコールランプで温めながら88鍵分のそれぞれのシャンクのバランスをとっていた。

木工製品なので、その性質上 “狂い”とは切っても切れない関係にある。

とにかく木材は普通に狂う。

狂いを極力少なくするために、天然乾燥で2年ほど保存すると聞いた。

当然、室内の風通しの良い場所で桟積みをして保存していた。

私が勤めていた会社は外干しである。

 2年間干す事はほぼない。

大抵の場合は半年以上1年半以内の使用となっていた。

私が携わっていたのは主にアクション部品だったので材料は広葉樹の楓。

目安としては1年ほど外干しをして、その後人工乾燥をする。

木材に含まれる水分量が6%から8%以内と決められていた。

これが狂いを最小限にするための適正な水分量。

これより多くても少なくてもピアノの部品としては向かない。

テレビの番組の中では、これらアクションと呼ばれる部品については紹介されていなかった。

ここは動く部分で、部品それ自体は88の鍵盤ひとつひとつに取り付けられている。

一言で形容するととても細かい。

ピアノの大きな姿からは想像できないくらい 小さなからくり細工のようなもの。

番組の中でとても大切に扱われていたのは響板と呼ばれる部分。

ここが命として扱われていたようだ。

ここでの材料がスプルースを使っていた。

この木材は針葉樹だが北の寒い地方にしか育たない。

私がピアノを北国の楽器といった所以がここにある。

このスプルースの柾目の特に素性の良いところだけを使って響板を張り合わせて作っていた。

ピアノの形に仕上げられる響板は、面積が広いため、 1枚板では製作不可能である。

したがって幅15センチほどの木材をたくさん張り合わせて1枚の板に作り上げるのだ。

この中での品質の吟味は厳格を極めていた。

とにかく目のよく詰まった本当の正柾目のみしか使っていなかったのだ。

わずかな節も一切認めずに本当に定規のようにまっすぐな木目。

見ていると原材料の半分以上は破棄されていた。

ここまで吟味しなければ納得のいく音は出ないのだそう。

確かに、大変なこだわりと言える。

スタインウェイの最終的な製造過程では、音色の統一を図るために、各鍵盤に取り付けられているハンマーウッドの先の部分、これはフェルトをつけて画像では白く映るのだが、要するに羊毛の部分なのだが、ここにフォークのような金具を何度か刺して硬さの調整をしていた。

ハンブルグのスタインウェイの工場では、このフェルトの部分の調整を行える人は68歳の職人1人のみ。

他の人は扱えないのだそう。

ここでオーケーが出た楽器のみ通し番号をあてがわれて出荷される。

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ピアノの王様はスタインウェイと呼ばれる所以

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コンサートホールでこの姿を見ることも多い

スタインウェイのピアノは様々な評価を総合すると、他のピアノメーカーに比べて音色 弾きやすさすべての点でバランスが整っているとされる 。

ピアノのメーカーはスタインウェイ以外にも何社かあるのだがそれぞれに特徴があってそれぞれのメーカーにファンがついている。

しかし、よりファンが多いのはスタインウェイ。

テレビに映るコンサート会場のピアノの様子を見たときに正面のマークを見ていただきたい。

そこにピアノメーカーのロゴが入っているから。

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スタインウェイ製アップライトピアノ

天秤のようなマークがロゴなのだが、英語でスタインウェイアンドソンズと書かれている。

この会社のピアノは外側の枠を頑丈にしっかりと作り、中に収める響板に特に心血を注ぐ。

良い音、納得のできる事を極限まで追求している。

また演奏者の側に立った鍵番の感触などもギリギリまで詰めてバランスをとっていた。

これらは流れ作業の中では行っていなかった。

すべては手作業で一つ一つ手作りして作り上げるのだ。

従業員の割には生産台数はかなり少ないと言える。

  1台のピアノ完成させるのにおよそ1年かかると言っていた。

本来 楽器なので、大量生産とか販売とかといった商業的な意味合いはおよそ似つかわしくない。

買うときの値段も決して安くは無いはず。

相応の値段がするはず。

番組を見ていて感じたのは、中古の製品もずいぶんたくさん出回っているようだ。

番組の中で紹介されていた矢野顕子さんのピアノもスタインウェイの1965年製のピアノだった。

バイオリンのストラディバリウスなどと同じように、良いものはきちんと整備をされて、長くいろんな人に受け継がれているようだ。

 1台の楽器が何人もの人に受け継がれるのは、個人的には好ましいことだと考える。

楽器にふさわしい状況が常に与えられた方が、音を聞く側にしても嬉しいはず。

 スタインウェイの愛好者たち

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セルゲイラフマニノフとキースジャレット スタインウェイの愛好者

ここに挙げた人たち以外にもスタインウェイの愛好者は多い。

私がお気に入りのピアニストたちもほぼ100%スタインウェイを使っている。

最近注目しているグレン・グールドとかマルタ・アルゲリッチ、また日本のピアニストにも愛好者は多い。

極めつけはロシアのホロビッツだろう。

彼は自分の所有しているスタインウェイ以外はひかないと決めつけ、コンサートの依頼があった場合は、自分のピアノわざわざ運ばせたそうな。

わがままなことで有名だった。

しかし、総合的に見てスタインウェイの優秀さは誰からも支持される点にあるんだろう。

テレビで見た番組を振り返ってみても、楽器を作る側と、演奏者の思い入れが不思議にマッチングしている気がした。

自分自身の楽器のルーツを訪ねて工場を訪ねる内容の番組だったが、私自身の過去の工場勤務の記憶も呼び覚まされて、最後まで興味を持ってみることができたのだ。

ちなみに放送は2013年の放送の再放送である。

ピアノの値打ちの何たるかが、しっかりと検証されていた放送内容だったと思う。