この間、NHKでずいぶん興味深い題材だなと思って見た番組。
それはほかならぬ31年前に亡くなった美空ひばりを、新曲を歌わせてよみがえらせるというもの。
もう亡くなった方なので、今、発達著しいAIに作業をやらせて復活させる。
ただし、新曲は秋元康がプロデュースして全く新しいものをこしらえるとのこと。
要するにコンピューターを駆使してなんとかかつての歌姫を蘇らせたい。
そういったことのプロジェクトの特集番組。
目次
歌手美空ひばりを振り返る
日本には歌が上手い人や、人気のある歌手などいっぱいいるが、こと美空ひばりだけは別格。
結論から言えば彼女の人気は未だに衰えることがない。
彼女のかつての様々な映像をもとに、今でもコンサートが開かれるくらいだし、彼女を慕うファンは、今でもその情熱を全く失うことなく存在しているのだ。
歌手美空ひばりの何がそこまで人を感動させるのだろうか。
美空ひばりは子役の頃から活躍していた。
爆発的にヒットした東京キッドなど、10代そこそこで大スターに。
子供の頃からずっと母親がマネージャー代わりで彼女についていたようだ。
どのように歌えばお客さんに喜んでもらえるのかを、歌手になりたての頃は母親から教えてもらっていたと聞いたことが。
つまり、幼い美空ひばりは母親の前で歌って見せて、様々な歌唱指導を受けていたのだ。
もともと歌のうまさでは定評があった。
正直なところを言えば、子役の人気を引きずって大人になってからも歌う歌手なのかなと思ったことも。
しかしそれは全く当たらない。
美空ひばりの凄さは、年齢を重ねるごとに実力をアップしていったこと。
つまり、歳をとるごとに上手くなっていった数少ない歌手なのだ。
私の記憶では普通の歌手のレコーディングと違って、リハーサルはせいぜい1回。
本番を歌い始めると、最初から最後まで1回で歌いきって、その後の取り直しは絶対にないらしい。
つまり彼女にとっての1曲1曲は、まさにその場かぎりの一期一会の一世一代のステージだったのだ。
歌うことにかける、その異常なまでのモチベーションは歌手美空ひばりの真骨頂とも言える。
基本的には演歌歌手のイメージだが、ポピュラー音楽を始めジャズなども普通にこなす。
どんな曲であろうが、彼女にかかればひばり節で見事に歌い上げる。
しかし、順風満帆に見えた彼女の人生も、彼女が40歳を超えた頃から少しずつ暗雲が立ち込め始める。
彼女の身内や親しい友達などが次々と早逝し始めるのだ。
彼女の母親や2人の弟など、また友人とおぼしきスターたちも次々となくなっていった。
これら親しい人との別れに苦しんでいた彼女は、酒とタバコを離せなくなったと聞く。
もともと、決して体の丈夫でなかった彼女はここから体調不良が始まるのだ。
彼女は47歳になった頃から重度の肝硬変で治療を始めている。
また大腿骨骨頭壊死など、歌手活動を継続できない事態にも陥った。
平成元年になってからは間質性肺炎で入院をすることに。
実はこの病気がもとで命を落としている。
この病気がもとで呼吸不全を起こして、それが美空ひばりをみまからせた。
家族全体も短命の家系だったが、美空ひばり自身も50歳を過ぎたばかりで命を落としたのだ。
AIの実力はいかほど?
今回、様々な人たちの願いを込めてこのプロジェクトは立ち上がった。
NHKのスタッフたちは、総力を挙げて専門家を招集。
美空ひばりになんとしても新曲を歌わせたい。
その1念で始まったプロジェクト。
AIを用いた歌手の復活は、外国ではそれなりに用いられている。
香港の大スターだったテレサテン。
ギリシャ出身の20世紀を代表する歌手マリア・カラス。
彼女たちはAIによってその歌声が復活している。
音楽で用いられる1音1音について、AIは全て分析して情報として取り入れるのだ。
その結果、美空ひばりの歌い方を完全に学習することに。
実は大変な作業ではあるが、今のAIはそういったことを普通に実行できている。
AIが活躍しているのは、例えば金融関係などは、投資のサポート役としてAIを用いたツールで様々なものが紹介されている。
また最近のインターネットでは、GoogleなどはAIを用いて様々なコンテンツを判断しているようだ。
人間がもともと作ったものでありながら、今はそのAIによって人間は評価されていると言っても過言ではないだろう。
様々なジャンルで活躍しているコンピュータープログラミングは、今や普通の生活でも切っても切れないものと言えるだろう。
AIがどれだけ優秀でも、そのAIに学習させるのは人間。
人間が様々な指導を与えて、優秀なプログラミングを起動させるのだ。
この優秀さは、ひとえにプログラマーたちの感性によるところが大きいだろう。
今回の美空ひばり復活プロジェクトの場合は、どのぐらい美空ひばりを再現できるのか。
そのためにはコンピューター用に、美空ひばりを何万通りもの解析で分析をするのだ。
美空ひばりの発声の仕方など。
また美空ひばりが歌うときの様々な仕草を、どのように再現するのか。
特に彼女は振付師がいなかったので、その都度その都度思いつくままに体を動かしていたらしい。
曲に合わせた自然な動きと言えば簡単にできそうだが、コンピューターがそれを学びとるのは至難の業と言える。
ここでも、天童よしみなど美空ひばりに縁の歌手の協力を得ている。
またステージ衣装を作っていたのは森英恵とのことで、彼女の協力も取り付けている。
さて、歌手として振る舞わせるには、なんといっても歌い方が大事だろう。
既存の曲を歌わせるのではない。
今まで誰も歌ったことのない新曲を歌わせるわけだ。
つまりAIは美空ひばりになりきって新曲を歌う。
どのように優れたAIであっても、与えられた条件で表現するとなると話は別。
当初、試しに作った歌い方だと、美空ひばりの古いファンからは完全にダメ出しをされている。
「これはひばりちゃんじゃない!」
難しい批評など不要。
ファンたちの反応は一目瞭然である。
そのようなことも何度か繰り返しつつ、AIを進化させた。
新曲をプロデュースする秋元康のこだわり
新曲をプロデュースした秋元康は 様々なメロディーを公募によって募った。
今回の作曲家は私が知る限りでは無名。
しかし、この穏やかな曲調は秋元自身気に入ったらしく、このメロディーに詩をつけることに。
秋元にはこだわりがあって、最初に作詞家を名乗るきっかけになった、“川の流れのように”はニューヨークで作詞したとの事。
そのことを思い出して、わざわざニューヨークに出向いて、その時のカフェの自分がかつて座った席にもう一度座って作詞しようとしていた。
どれだけの時間をかけたのかはわからないが、
「もう一度美空ひばりに会いたい。」
「彼女にこの日本を励まして欲しい。」
その思いを込めて曲作りを。
そして、この曲の中にセリフの語りを入れることになったのだ。
美空ひばりの様々な楽曲の中でセリフがあるのは“悲しい酒”だけ。
情報量が圧倒的に不足していたので、美空ひばりのご実家まで伺って、かつての録音したテープを借りてセリフの情報を得ていた。
せっかくのプロジェクトである。
何とかして美空ひばりを復活させたいとの1念が、やがて実を結ぶことに。
聞く人全てに感動を
番組の最後では演奏会風の味付けで新曲が披露されていた。
引用させていただいたのはこちら
さて、このステージを見て、誰もが涙しながら感動したこの作品。
皆さんはどのように感じるでしょう。