高倉健の遺作となったこの映画、実は映画に出演していた大滝秀治の遺作でもある。
2012年の封切りなのでもうすでに8年前の作品。
普段、こういったジャンルの映画はあまり見ない私にとっては、たまたま録画してあったものを見ることに。
80歳を過ぎていた高倉健を改めて見てみたかったことと、過去にこの映画はいちど見たことがあって。
その時の記憶がぼんやりとしていたこともあって、もう一度確認したいと思ってみることに。
目次
高倉健は刑務所などに関わる役柄が多かったかも
物語は刑務所に慰問で歌手をしていた奥さんをガンで亡くしてしまう刑務官が奥さんの遺言に従って九州は平戸で遺骨を散骨するために車で旅をしようと言う話。
舞台は富山刑務所なので車で九州までの移動をするにはかなり距離がある。
刑務官といっても嘱託で雇われていた木工技術者。
特にお祭りで使う神輿等の製作を引き受けていたらしい。
自分自身の車もキャンピングカーに改造。
内装その他はすべてお手製と言うハンドメイドの作品。
旅の途中の様子なども所々映していたね。
この車で旅をする途中に様々な人間模様が描かれていた。
1人は元SMAPの草なぎ剛
彼は駅弁の移動販売を実演してあちこちを旅して歩く営業マン。
その彼に部下として同行する佐藤浩市。
さらに、映画の前半で登場していたのが北野武。
彼がなんと車上荒らしの泥棒の役どころ。
この尤もらしい演技がなかなか様になっていたなと。
出演している何気ない俳優陣がかなり立派


映画の中で何気ないエピソードとして描かれてはいるが、
寡黙な高倉健の役どころを絶妙にサポートする2人の演技は秀逸。
特に車上荒らしをしていた北野武は元国語の高校教師の触れ込みで種田山頭火などを饒舌に語っていた。
聞けばそれらは、皆 作り話とのこと。
他の映画に出演すれば北野監督で、世界的に有名なんだけれど、この作品に関して言えばこの役どころで高倉健をもり立てる。
そして重要なキーパーソンになるのが佐藤浩市。
彼は高倉健が目的地とする平戸の元漁師。
訳あって借金を作った挙句、漁に出て遭難をして自分自身を死んだことにして生命保険でその借金の穴埋めをしたという止むに止まれない事情があった。
物語はドラマチックなエピソードも絡ませてはいるのだが、そのことを重く辛く語る事はなく、見ているものをして“そんなこともあるよな”、そう思わせるようなさらりとした描き方。
平戸で散骨を引き受けてくれる漁師を探すときに、引き受けてくれた漁師が大滝秀治。
彼は何を隠そう佐藤浩市の父親の設定だった。
もう年老いたおじいちゃんの役柄だったが、存在感は抜群。
もし長生きできていればまだまだ様々な作品にお声がかかったはず。
この作品では、高倉健の抱えている事情を察して、わざわざ便宜をはからってくれた。
何よりも彼の息子がこの海で死んだことになっているので。
しかし佐藤浩市の死亡した事実は彼の残したメモによってその奥さんにばれてしまうことに。
メモを残せば筆跡がわかってしまう。
奥さんならばなおのこと。
そのことをいち早く察した奥さんは自分たちの娘の結婚写真を高倉健に託すのだ。
海へ散骨したときに一緒にこの写真を海に流してください
でもそれは違うんだよね。
生きている夫の元へこの写真を届けてはもらえまいか。
ちょっと切ない作りになっている。
物語の最後の方で、このことに対する丁寧な説明が、映画の中でさらりと語られていた。
刑務所の中の情報を外に漏らす事を鳩を飛ばすと言うのだそう。
高倉健曰く
今日私は鳩になりました
映画の中ではこの辺が真骨頂と言える。
役者高倉健
高倉健のことを調べれば溢れんばかりの情報がネットの中に。
その中でも特筆すべきものをいくつか。
- 性格は驚くほど実直
- まれに見るほどの礼儀正しさを兼ね備える
- 高倉健を心から尊敬する仲間たちが圧倒的に多い
- 本番の撮影は1回だけしか認めない
- 生涯独身を貫く
他にも数え挙げればキリがないが、ここら辺で充分伝わるのかなと。
車の運転もかなり得意と見えて、運転シーンなども全て自前で行っている。
彼は役者として成功したときに真っ先に買った愛車がポルシェだったはず。
このポルシェは確か北大路欣也の所へプレゼントされたと聞いているが。
高倉健を、ことのほか敬愛する俳優たちはとても多いのだ。
それは女優たちでなくていわゆる俳優たちである。
北野武 千葉真一 武田鉄矢 小林稔侍
多分、他にもいっぱいいるだろうと思うが、私が知っているのはこの辺の人たち。
女優とそれほど浮き名を流さなかったことでも彼には清廉潔白なイメージがついて回る。
そして演技をする上で独特のポリシーがあったとも聞いている。
本番の演技ではその時の演じる者の心構えもとても大切にして、同じことを何度も演ずることを自分にはできないと、本番の演技はテイクワンで通したと聞く。
そういえば彼のメイキングの映像を見たことがあるが、共演していた綾瀬はるかの九州弁を、ことのほか褒めていた記憶が。
役者が演技をするときには、基本ものまねをするしかないんだけれど、方言などは地元の人そのものになりきってしまったのでは、要するにあまりにも上手すぎるのは演技としてはあまり進められないと。
ほんのわずかに違和感が残る程度にした方が演技としてはよく伝わるんだよと。
綾瀬はるかの九州弁にそんな評価をしていて、
君のはちょうど良い伝わり方ができている。
そんな褒め方をしていた記憶が。
高倉健自身は長ゼリフの役者さんではない。
ほとんど言葉を発しない演技でその雰囲気で役柄を演じきるのだ。
最近にはない役者さんだと言えるだろう。
映画から伝わってくるもの
映画で語られた夫婦愛は一体どう解釈すればいいんだろうか。
片方がなくなってしまうわけだから、残されたもう片方への遺言と言うことに。
今回は妻に先立たれる設定。
年齢を考えたならば、夫が新しい伴侶を見つける可能性はかなり薄いと言える。
しかし、自分が亡くなった後でも幸せな穏やかな余生を過ごしてほしい。
そして自分自身の願いとして故郷の海で眠りたいと。
夫を気遣う妻の思いは、自分自身のわがままを夫に押し付けることで夫を生かそうとしたのかもしれない。
夫が妻のことを懐かしい思い出として心の中にきちんとしまうことができるように。
儀式としての散骨をあえておねだりした形になっていたと思うな。
久しぶりに見たこの映画で、映画が伝えようとしていたその真意がわかった気がする。
ちなみにこの映画で高倉健は日本のアカデミー賞の主演男優賞を受賞。
ほとんど一言二言のセリフが所々にある位で、そのくせ圧倒的な存在感。
81歳の高倉健が役者としての想いの丈を込めていた。
実は、聞くところによると次回作の予定も決まっていたらしいが、残念ながら彼はこの後、
悪性リンパ腫によって2年間闘病した後この世を去ることに。
白血病(悪性リンパ腫は白血病の1種)だったので、厳しい闘病生活をしたのだろうなと推察。
自分の弱った姿は決して人には見せたくなかったようだ。
養女となった小田貴さんのインタビュー記事にあった。
多分高倉健の映画をかなりの本数見ているはずなんだけれど、これだけの役者さんはそう簡単には現れないだろう。
彼は彼だけで存在している唯一無二の俳優だから。