ゴッドファーザーの最初の作品は1972年の封切り。
私が19歳だったから、初めて内地に行って生活を始めた年。
毎日の生活の中では、テレビよりも主にラジオをよく聞いていたような気がする。
勉強に励むよりは、アルバイトとか音楽の事とかそっちの方がはるかに興味津々だった。
この映画に関して最初に私が注目したのは音楽だったろうと思う。
ニーノ・ロータ作曲のこのテーマ音楽は、かつてロミオとジュリエットの主題曲を作曲したイタリアの作曲家で記憶の中に鮮明に残る。
あれからこの三部作の映画を一体何回見ただろうか。
その都度作品の持つメッセージを受け止めつつ、この年になって初めて思い至ることもあるので改めて自分なりの感想をアップしたい。
目次
フランシスコッポラの傑作映画シリーズとして
最初の作品の後2年遅れてすぐにパートⅡが発表された。
この物語のとても優れている点は、ストーリーにおいて様々な登場人物の葛藤が描かれるのだが、その描く感触は驚くほど淡々としていること。
演出がとてもさらりとして、描かれたシーンに感情移入せずに語られているような不思議な観察眼を持たせてくれる。
特にそれが顕著に現れているのは3作品ともに描かれている殺人のシーン。
そのほとんどは縄張り争いにおいて、命のやりとりをしなければならなかった止むに止まれぬシーンとして描かれていたが、思ったほどは残虐性を感じないような不思議な作りになっている。
もちろん情け容赦のないシーンなので衝撃的ではある。
- 父親の稼業を嫌っていたマイケルが自ら殺人を犯すシーン
- 自分の兄が車の中で中の乱射を受けて絶命するシーン
- マイケルが自分にとって都合の悪い相手を次々と殺戮するシーン
- 極めつけは3作目で自分を狙った銃が自分の最愛の娘を殺してしまうシーン
他にも殺人を描いたシーンはあったが、物語の中で重要なのはここら辺だろうか。
コルレオーネ一家はいわゆるマフィアで、法律には従わない非合法な活動を専門とする。
俳優たちは皆喜怒哀楽を激しく演技していたが、見ている方は感情移入と言うよりは、第三者の目で冷ややかに見ていられるのがこの映画の最大の特徴かもしれない。
コルレオーネ一家が辿る歴史と悲劇
三部作を通して主役を演じていたのはアル・パチーノ。
図らずも自分自身の父親の稼業を継ぐことになったマフィアのドン。
縄張り争いの末に自らの勢力図を大きく拡大していく。
そのやり方は合理的ではあるが驚くほどの非情さを伴う。
決してその場の感情に流される事はなく、どの方法をとれば自分に利益があるのか、自分に関わる者たちにどのように恩恵を与えることができるのか。
それは驚くほどの冷徹さで彼を表していた。
この映画の中のアル・パチーノの演技は本当に秀逸だろう。
小柄で神経質そうなマフィアのドン。
しかし驚くべき権力を保有していて、自分の身に降りかかる火の粉は簡単に振り払うことができるし、気に入らないものは容赦なく排除する。
マフィアの世界に足を踏み入れてからは、数々の苦難の歴史も彼の人生には現れる。
特にシチリア島で最初の奥さんを目の前で殺された車の爆破されるシーン。
愛する者を目の前で失う血の出るような痛みを何度か味わいつつ人生の年月を重ねるのだ。
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ベースになっているのは仏教の業報思想
ゴッドファーザーを貫いている精神的な背景について少しずつ考えられるようになってきた。
監督のコッポラは黒澤明に心酔していて日本びいきと聞いた。
彼が日本を訪れては黒澤明や仲間のスピルバーグやルーカスと歓談していたのはニュースでもよく伝わっている。
このハリウッドを代表する3名の映画人は皆日本びいきだろう。
そして日本人の心のベースになっているのは仏教的な思想背景。
自分自身が成した事柄は自分自身に返ってくるという業報思想。
宗教的な世界なので一概には表現しにくいが、輪廻転生を繰り返しつつ、過去世から来世に至るまで似たような運命を反復していく。
そして自分が成した業は必ず同じようなものが自分に報いとして返ってくる。
ゴッドファーザーはそうした仏教的な思想をベースに作られているのだろうか。
主人公のマイケルコルレオーネは自分自身の事業拡大のために何人かの命を自ら葬ってきた。
止むに止まれないとは言え人殺しに手を染めてきたのだ。
そしてその報いは映画シリーズの最後の場面に現れる。
マイケルが力を尽くして設立した慈善事業の団体、その団体のトップに自分の娘をすえた。
しかし、マイケルを快く思わない勢力は常に存在し、暗殺者に命を狙われることに。
そんな中で本当に映画の最後。
マイケルを狙った銃弾がこともあろうに自分の最愛の娘を死なせてしまう。
マイケルの姉妹役を演じていたのはタリア・シャイア。
彼女は映画ロッキーのエイドリアン。
コッポラ監督の実の妹。
そしてコッポラの娘のソフィアコッポラがマイケルの娘として出演していた。
彼女はスター・ウォーズのファントムメナスにも出演。
父親の影響を受けていて彼女自身も映画人。
俳優以外にも監督などをこなしているようだ。
このソフィアコッポラが主人公マイケルの目の前で息絶えるシーンがこの映画の最大の見せ場となっている。
アル・パチーノの絶叫するシーンは何度も見たが今でも見るたびに鳥肌が立つほどの感動を覚える。
様々な映画がある中でゴッドファーザーは娯楽映画の範疇に括ってしまうには内容が重過ぎるかもしれない。
しかし物語として見たときにこの映画の作風は驚くほど崇高だろう。
人間の欲望とそれにまつわる悲劇。
そういったものを遺憾なく表現できていると言える。
私の中で外せない映画が何本かあるがこの映画は間違いなくその中にカウントされる。
3番目の完結編までが登場するまで18年かかっている。
アメリカ映画の手法も随分と変化した。
これからの映画でこのような重いテーマを描ける作品はおそらくどの程度出てくるだろうか。
その意味でも、この映画は極めて値打ちの高いものと認識。