外国で知り合った日本人同士が意気投合して同棲するほどの仲にはなったけれど。
環が少しずつ成功のステップを歩み始めメジャーになりつつあるときに嗣人は最初の個展で
思うような結果は得られなかった。
2人の運命の歯車は少しずつ噛み合わなくなっていき、やがてはその関係にピリオドを。
訪れるそれぞれの運命をお互いに受け入れることができずに、苦しんでしまう2人。
今回は双浦環と今村嗣人の別れを描くエピソード。
目次
嗣人への評価
個展の話が舞い込んできて全力で取り組む嗣人君。
しかしそこで得られた結果は惨憺たるものだった。
平凡で見るべきもののない作品で、期待はずれ
期待はずれの言葉は蔑む言葉としてはこれ以上のものはないだろう。
特に作品を作った本人の思い入れが大きければ大きいほど、心に受けるダメージは比例して大きく。
さてそんな彼を慰めようとする環さん。
しかし、下された評価が覆るはずもなく、身内の批評など成功を求めるものにとってはそれほど励みになるわけではない。
環に訪れるチャンス
嗣人君が挫折をして足踏みしている最中、環さんにはまたとないチャンスが巡ってくる。
実はプッチーニの蝶々夫人は初回の公演では結果がおもわしくなかった。
その失敗を受けて次の公演からは出演者を一新させて、特に主役の蝶々夫人は作品の設定通り日本人で描いてみたいと。
その日本人での役柄に彼女にオファーがかかったのだ。
実際のモデルとなった三浦環さんもプッチーニの蝶々夫人が十八番だったと見えて、きちんと音源が残っている。
こちらがご本人の音源。
プッチーニのお気に入りだったと聞いている。
エールの中での双浦環さんはこの彼女がモデルなので、成功した段階では世界的な大歌手だったことがよくわかる。
すれ違う2人の心
成功への階段を着実に歩んでいる環さん。
その様子を傍で見ながら、
彼女への賞賛の気持ちとは裏腹に嫉妬心を抑えることができない嗣人君。
芸術家といえども所詮は人の子。
彼女が全くの赤の他人だったらここまで嫉妬心を抱く事はなかったはずだが、少なくとも恋人で好意を寄せている相手。
自分自身も彼女にふさわしく同等の成功を身に付けたい。
しかし自分の能力では残念ながらそれは叶いそうもない。
彼女を賞賛したい気持ちと、自分と同じように彼女が失敗することを想像して苦しみをより増幅させることに。
物語の中では自分自身の感情を抑えることができず俳優金子ノブアキが怒号を発するシーンが何箇所かあったね。
そこまでの演出が必要なのかなと思いつつ、それだけ真剣なことを表現したかったのだなと。
嗣人の苦しみ
嗣人君がうまくいかないときに環さんはひたすら優しい気持ちを手向ける。
しかしここで描かれていたのは、気持ちとは裏腹に思い通りにはならない男女の心の機微。
優しくされればされるほど惨めに感じてしまうのが切ない男心。
そうそう、男ってのは思いのほかプライドの中に生きている。
慰められたり優しい言葉をかけられたりすると、それはそれで嬉しいと感じる時もあるが基本的には成功できない挫折したままの自分を激しく意識させられてしまうのだ。
ダメな自分を痛烈に感じてしまう。
男にとってはある意味拷問のようなもの。
これはかなりベタな心の動き方で、男なら大抵の場合 思い当たることもあるのでは。
男の強さでもあり弱点でもある。
物事を全て自分自身のこととしてまともに受け止めてしまうのだ。
身をかわしたり、やり過ごすと言うことができない。
やがては自分自身でどんどん疲弊してしまって、擦り切れてボロボロに。
別れるしかなかった
嗣人君がどれほどの失敗を重ねてきたのかはわからないが、彼は自分自身が環さんにふさわしい男となるべく必死に考えてみた。
そうして出した結論は環さんにお願いをする
歌を諦めてくれないか?
さすがにそれだけは受け入れられることにはならなかった環さん。
自分は光でありたいと
このエピソードの中で特に重要な役割を果たしていたのがピーターフランクル氏。
彼がその場面場面で、物語の2人の心をよく表現していた。
彼女はこの後蝶々夫人の主役で大成功を収める。
世界的な大歌手に成長を遂げるのだ。
それに対して嗣人君。
彼は別れた環さんを思って1枚の和服の日本女性を描いた。
かつて彼のことを酷評した評論家がやってきて、これだけの絵をかけるのなら君はまだチャンスがあるのではと。
そして、ぜひこの絵を売ってくれと。
しかし、その申し入れに決して首を縦に振る事はなかった嗣人君。
別れたとは言え、まだ環さんを忘れることができない。
もう思い出の中でしか会うことができない。
そしてこれから彼女ほどの素晴らしい女性にも巡り会えないと思い込んでいるようだ。
こうして今日のエピソードは終わることに。
二日間いつものエールのタイトルコールなしで終わったオムニバスシリーズ。
男女の心の在り方がうまく表現されていたけれど、俳優たちにあそこまで厳しい演技を要求するなんて、演出家の意図なのか、それとも俳優の心意気なのか?
物語としてはとても面白かったなと。