ちょうど今ぐらいのシーズンなので時々思い出すことも多い。
私が物心ついた頃から父の趣味は釣りだった。
今のように釣り好きの人がよくやるような立派な竿とかリールなど全く持ち合わせていなくて、骨董品レベルの古いものと自分で作った運搬用の木の箱をバイクの後ろにくくりつけて早朝出かけていったもの。
私の故郷は北海道の日本海側の北のほうに属する。
ここの海岸線は所々が岩場になっていて、
そこでこの夏の時期に旬とされるアイナメを狙う。
ちなみにアイナメの呼び名は私が随分と大きくなってから知った。
子供の頃はアブラコと呼んでいた。
呼び名のいわれはわからないが、ネットで調べてみると関西地方ではアブラメと言って高級魚とされているようだ。
北海道ではもっぱらアブラコ。
どちらかと言えば魚がそれほど得意でなかった私も、この魚だけはなぜか初めからおいしいと思って食べた記憶が。
目次
生まれ育った地元で釣りをしていた
父が釣りをしていたのは、この小平鰊番屋のちょっと下ぐらい。
何の変哲もない海岸が続くのだが、所々に岩場があるらしくて、そこに狙いのアブラコが生息。
5回釣りに行くと、2回くらいは何とか釣れる。
残りはハズレ。
必ず釣れるとは限らない魚。
特に磯からの投げ釣りなので、父曰く、
波が良くなければ釣れん!
父の言う良い波とは少し海が荒れる直前くらい、波打ち際に波がある程度打ち寄せる状態。
大しけの時とベタ凪の時は釣れないと言っていたね。
時期になるとそわそわして海岸線の様子をちょくちょく点検しに行っていたようだ。
釣りに行く時間帯は明け方。
夜中の2時半ごろに起きて出かけるらしい。
調子が良ければ11時ぐらいまで釣りをして帰ってくる。
仕事があるときは当然無理なので、仕事が休みの日曜日とかに行っていたと記憶。
そうなると休みの日と天気と波の条件の揃う時は少なかったのかも。
狙うはアブラコ
ちなみにこのアイナメだけど、ネットでどのくらいの値段するのか調べてみたが、
30cmほどのものでおよそ500円とあった。
40cmオーバーかそれ以上のものになると、一気に値段が上がって2000円を軽く超えてくる。
なるほどそう言われてみれば高級魚。
しかしスーパーとかにしょっちゅう行く私から見ると、スーパーで見かけた事はほとんどないよね。
日本海側の沿岸は山陰から北海道に至るまで全域に生息しているとの事だが、名前ほどには市場には出回っていない気がする。
そしてオホーツク海のほうに回ると全く取れないと聞いている。
ちなみにこのアイナメがよく連れていたのは私が小学生の時分までだったと記憶。
私が中学校に行ってからは、ほとんど食卓で見かける事はなくなった。
父親曰く、全く釣れんな。
たまに行って釣り上げてくるのは、せいぜいカレイぐらい。
生息数が少なくなった可能性も否定できない。
私は18歳までしか田舎にはいなかったので、それ以降の父はきちんと釣道具を新調して酒釣り専門に回ったようだ。
私も何度か御相伴に預かった。
新鮮なものは刺身がうまい
普通夫が釣ってきた魚は妻が大体処理してる家が多いだろうが、我が家は少し違っていた。
はじめの頃は母親もしぶしぶ料理していたが、最初に裁く時がどうしても抵抗があったらしい。
理由を尋ねたところが、新鮮な魚なので包丁を入れたときに血がさーっと流れるのがどうしても耐えられないと。
そういえばこの頃は魚を釣っても活け締めするような習慣はなかった。
釣りっぱなしでは、すぐにイキが下がってしまう。
それと、釣ってきた魚は大抵の場合ピンと立つぐらい新鮮だったが、その状態ではまだ血が固まるまでには至らない。
それが嫌だとのことで、それ以降は父親が自らさばいていたと記憶。
釣ってきたその日のうちに食べるのは大きいサイズのものは刺身。
それ以外のものは焼いたりする場合もあるが煮物に回ったり、酒粕につけたりといろんな方法で食べたと思う。
記憶にあるのは生魚の刺身は子供の頃からそれほどおいしいと思った事はなかったが、このアブラコを食べてからはつとめてうまいなと感じるように。
魚屋で出回らないことを考えれば、我が家だけの特権だったのかもしれない。
海で泳げるようになってからは潜った時にも遭遇したね
夏の間は私も素潜りでウニを取ったりつぶ貝を取ったり夏の間は楽しい思い出がいっぱい。
岩場で潜るので、様々な魚に出くわすことに。
アブラコは突然目の前に現れるとさすがにびっくりする。
水中では大抵のものは少し大きく見えるので、あの顔とか背中のヒレの様子とかが目の前に現れるとさすがに驚きを隠せない。
水の中ではゆったりと泳いでいるが、印象としては小顔の雰囲気が残る。
アブラコは顔が小さいのではないかと今でもそう思っているが。
魚食文化は大事だね
魚を食べる文化は大切にしたほうがいいと最近特に感じる。
めんどくさいのでどうしても肉料理に偏りがち。
その点、海岸縁で育った父は旬の魚は何がおいしいかをよく知っていたと思う。
内陸部の生まれの母親に色々と講釈を垂れていたのを思い出す。
夏の今の時期はとにかくうまくいけばアブラコにありつけた。
そうでない時に我が家の食卓によく登っていたのは、イカの刺身ではなかろうか
あの当時イカはかなり安かったんだろうと思う。
イカを刺身で食べるようになってからわさびをたっぷりつけて鼻に辛味が抜ける感じが大好きになったと記憶。
子供の頃から辛いのは大好きだったと思う。
さて、今にして思えばあの当時からは食習慣もずいぶん変わってきた気が。
私は晩酌をやる習慣がないが、父親は毎日のように晩酌をやっていた。
その時の酒の肴がこういった近海の海の幸だったような。
この時期になるとそういったことを思い出すことが多くなるのだ。
もうずいぶん時間が経ってアブラコの味もなんとなく記憶のどこかに行っちゃった。