4月30日にあの立花隆さんが亡くなったニュースを初めて見てからもうずいぶん経ったと思う。
私自身も個人的に思い入れのある方で、特に知的要求を持ち続ける部分で大きく納得できる人だった。
やはり思っていた通り、特集番組などもたくさん組まれてテレビを見る機会も増えたし、何よりもネットに様々な人たちが論評を書き込んでいる。
それらの一つ一つに目を向けると、彼のことを悪く言う人は誰もいないことに気がつく。
特に素晴らしいと感じたのは彼と同業の人たちがこぞって賞賛していること。
私の中では物書きの分野に所属する人、またはジャーナリストといったところになるか。
以前にも何度かテレビで彼の特集番組を拝見したことがあるので、とてつもない読書家だったと言う事はよく知っていたが、生真面目さに改めて脱帽する。
この間のクローズアップ現代の30分の特集番組を何度か見させてもらったので、その感想も交えて私なりに振り返りたい。
目次
若い頃は文芸春秋社で働いていた
調べてみてよくわかる事はとにかく好奇心の塊の人。
歴史に名前を残す人は多かれ少なかれ旺盛な好奇心の持ち主がほとんど。
彼もまさにその通りで、自分が納得するまで徹底的に調べあげることを信条にしていたようだ。
文芸春秋社に入社した後、およそ2年ほどでフリーライターになるのだが、主に週刊誌に自分の文章を紹介することが長く続いたようだ。
あらゆる分野に興味の対象は向いている。
そしてテレビで見た中で語っていたのは、本来世の中が口をつぐんで黙っていることも、彼の場合?がついたならば彼なりの好奇心で徹底的に調べあげること。
有名になったのは田中角栄研究だろう。
いろいろ調べても田中角栄の闇を暴くとの触れ込みが一般的に知られるが、彼にしてみれば政治家の胸の内をしっかりと把握したかっただけのようだ。
政治の世界には必ず裏があって、さらにその裏も存在する。
それが口癖だったと聞いている。
その裏の裏をどれだけ正確につまびらかにすることができるのか。
それ以外にも彼の好奇心は様々な分野に向いていた。
特にノーベル賞を受賞するような物理学や医学の世界でもその興味の矛先は向けられた。
ノーベル賞を受賞した著名な科学者利根川博士、山川博士など、ツーショットで写っている写真も多数紹介されていたね。
彼の取材を受けていることに他ならないが、専門的な説明は長くなるのではしょりましょうかと提案されても、はしょらずにすべて教えてくれと伝えるのが彼の流儀。
とにかく発表された論文等は全て読み込んで理解してから取材に臨んでいたと言うから恐るべきもの。
どれだけの好奇心を持ち合わせていたのだろうか。
絶対にゆずれない知的欲求
彼の取材や調査は彼自身だけでは終わらない。
20人近いスタッフがいたと聞いている。
そのスタッフが日がな一日かけて集めてきた資料を夕方書斎にやってきて、逐一目を通して自分の知識として整理していく。
かなり地道な作業に見えるが、作業量は膨大だろう。
知的好奇心と言えばそれまでだが、彼の場合感じ取る力、つまり感性もずば抜けて優れたものがあったに違いない。
これが世の中に役立つことなのか、それとも害をなすものなのか 、そういった事は優れた感性で直ちに反応したに違いないのだ。
その感じた直感をもとに莫大な知性の裏付け作業を行っていく。
もう10年近く前彼が膀胱ガンに罹患していることをテレビの特集番組で報告していた。
その時、彼は自分の意見として、自分のガンが再発する可能性が極めて高いことを知っていた。
再発したときに抗がん剤等の治療を受けるか否かとの問いに、僕は受けないと断言していた。
治療を受けても、その後長く生きられる可能性は統計的に見てほとんど変わらない。
それならば煩わしいことで時間を浪費するのはまっぴら御免と。
とてつもない合理主義。
自分自身の命のクオリティーを下げてまで長生きしようとはまるで考えていなかったと、その時思い知らされたね。
田中角栄研究で一躍有名に
この当時日本の政界の中でトップに君臨していたのが田中角栄。
しかし、田中角栄には若干の弱点があって常に刑事事件に関わるような危ない橋を渡ることがあったらしい。
田中角栄と言えば=お金とすぐに思いつくが、そのお金は一体どこからやってきているのだと素朴な疑問は誰もが抱いていただろう。
しかし、そこは追求しないのが当時のマスコミ界の暗黙の了解だったようだ。
立花隆の知的好奇心はその暗黙の了解をよしとはしなかった。
とにかく膨大な時間をかけて徹底的に調査したのだ。
どんな政治家だって、多少はうしろぐらいことがあるに違いない。
案の定、田中角栄の金脈にはほころびがいくつか出ていた事は否めない。
そのことを明らかにした立花隆の功績はとても大事であることは間違いないが、私の個人的な意見では政治家など大抵そんなものだろうと思ってしまう。
今活躍している政治家だって似たようなものだろうと。
法律的な制約や様々な防衛戦で表に出てこないだけで、叩けば絶対にまともではいられないはず。
今は立花隆のような情熱的なジャーナリストがいないので、闇に埋もれたままだと理解している。
科学的考察の領域を超えようとしていた
彼自身が膀胱ガンになったことで生きること死ぬことについても向かい会うことになったようだ。
臨死体験についてもずいぶん詳しい論評がなされている。
彼のスタンスとしてはあくまでも科学的なアプローチを常としていた。
個人的な見解で言えば宗教の側からのアプローチをするべきではなかったかと。
科学的な考察は基本的には物質の法則に基づくので、生き死にを考えようとすればそれは科学の領域からは外れるしかない。
そこをうまく取り入れることができれば、臨死に関わるようなこともおのずと解明されるのではないかと考える。
また、私の記憶の中ではアポロ13号の特集番組も彼の調査でその信憑性にきちんと裏付けがなされたような気がする。
アポロ計画の中で唯一失敗したミッション。
突発的なアクシデントだったけど、ほぼ十中八九死亡するしかなかった計画はみんなの協力で奇跡的に生還を果たすことができた。
そのことを詳しく調べた特集番組を見たことがある。
他にも、東シナ海に沈んだ戦艦ヤマトの調査記録。
この時も大和の数少ない生き残りの人たちや遺族会に徹底した取材活動をして、今に伝わる想いを明らかにした。
戦艦ヤマトは沈んでいる場所は水深がそれほど深くはないので、引き上げ計画も実際あったと聞いているが、そのことは遺族会の強硬な反対で中止になっている。
そっとしておいてやってくれ!
静かに眠らせておいてくれ!
その気持ちが最も大切だと立花隆は番組の中で語っていた。
まとめ
仕事量も膨大だと言える。
亡くなった時にNHKのディレクター宛に段ボール63箱の資料を預けられたと聞いた。
おそらく立花隆の様々な業績の1部だろうと思うが、これから少しずつ調べ上げて番組として発表されるに違いない。
知ることをやめたら人間は滅びてしまう。
彼はそう信じていたようにも思う。
よく医学の分野で進歩的な業績があるたびに不老不死が近くなったとのたまう人もいるが、そのことを真っ向から否定していたね。
人間は誰でも必ず100%死ぬ。
彼は断念してやまなかったが、言っている言葉の意味は大いに納得できる。
しかし、世の中の仕組みについて正しく資料とする努力は絶対に続けなければいけないとも強調していた。
2000年以降日本の基礎科学分野の予算が少しずつ減らされている現状をとても嘆いていた。
私も個人的に思うが様々な研究がある中で、最も力を入れなければならないのは基礎研究。
それは今現在は全くお金になる事はないし、何の貢献もしないように思うかもしれないが、
そこの研究をおろそかにする事は砂の上に建物を構築するような危うい行動をとることと同じになる。
基礎的な研究についてもっともっと真剣に取り組む必要があると。
立花隆の遺言だったかもしれない。
私が語るにはあまりにも巨大なテーマで、とても語り尽くせることでは無いのだが、思いつくままに書き進めれば今のさらに数倍の文字量になってしまうと思うので、この辺で終了させてもらうことにする。