昨日の金曜ロードショーでは宮崎アニメの風立ちぬがノーカットで上映されていた。
最近この番組は、著名な最新作を次々とやることで注目していたのだが。
スタジオジブリの「風立ちぬ」は2013年度の映画。
当時仕事を変わったばかりの私は、忙しさにかまけてなかなか映画館にまで足を運ぶ事はなかった。
その後も何とか見ようと思っていた作品には違いなかったが、結局 昨日の地デジの放送でやっと全編見ることに。
一言で形容すれば、これは叙情詩。
零戦の設計者「堀越二郎」と、小説風立ちぬの作者「堀辰雄」が一体となったような主人公が描かれる。
映画館でこの作品を見て涙をこぼした人の話も何度か耳に。
映像からは正直言ってそれほどの悲壮感を感じたわけではないが、生きること死ぬことについて決して目をそらさず真正面から向き合った人たちの厳しい時代を生き抜いた物語と感じる。
私なりに思うところもあったのでブログにまとめてみることに。
目次
小説風立ちぬがポリシーだったような気がする
初めてこの小説を読んだのは13歳くらいだから、もう半世紀以上も経っている。
小説の冒頭にある一節がとても印象的だった。
「風立ちぬ、いざ生きめやも」
小説内でも言葉の解説がなされていた。
様々な訳があるけれど、今の私ならこんな風に解釈したい。
風が吹きはじめた
さて、生きなきゃなぁ
この言葉は、自分自身の婚約者が結核に犯されて余命いくばくもない状態でまさに死ぬときのことを想定している。
この小説は、私にとっては恋愛小説。
命の期限を限られた2人がどんなふうに過ごすかが物語の最大のテーマに。
主人公の婚約者は写真で示すように実在のモデルがいて、彼女は24歳で療養所で結核にて亡くなった。
映画を見て感じたのは、主人公堀越二郎の生活部分が全てこちらの小説風立ちぬを踏襲していること。
小説では主人公は小説家となっていたが、こちらのアニメでは飛行機技師となっていた。
宮崎駿はこの作品の重要なスローガンとして
「生きねば」を掲げた。
零戦設計者堀越二郎
堀越二郎はかつて零戦の設計者として有名になったが、このアニメ作品の中では零戦設計に至るまでの道筋はその前段階が詳しく語られていて、零戦そのものは最後にわずかに登場するだけ。
つまり、戦争や戦争犠牲者などそういったことを言及する物語ではない事を意味している。
飛行機が好きで、まっすぐにその研究を突き進んだ人たち、主人公。
彼らが歴史の間で、このような人生を歩んだとの叙情詩のような作品。
零戦は海軍のオファーで作られた戦闘機。
とにかく要求が当時としては常識をかけ離れた内容だった事は他の様々な資料から明らか。
当時としてはありえない航続距離。
攻撃用の重機関銃。
空中戦を行ったときの運動性能。
これらを全て満足させると。
この時最大の課題になったのは、限界まで軽量化を図ること。
零戦はその特徴として驚くほどの軽い機体が挙げられる。
何せ、1100馬力ほどのエンジンであの飛行機を飛ばさなければならない。
そのためには翼も機体そのものも限界まで軽くしなければ、要求を満足させることにはならなかったようだ。
結果として、パイロットを保護するような防御は一切採用されていない。
また翼などの強度にも制約があって、急降下や急反転などはできれば避けた方が良いと言われた。
私が聞いた話では、無理な急降下をすると翼にシワが寄ったり、最悪 空中分解したり。
そこまで努力して得られた戦闘機だった。
このようなシーンを登場させたのは、おそらくこれが自分の意図した希望したことでは無いとのメッセージだろう。
戦争を批判するわけではないが、携わった結果このような目に遭ってしまうという。
スタジオジブリのこだわりはすなわち宮崎駿のこだわり
アニメーターとしての宮崎駿は誰もが認める第一人者で、そのこだわりは作画にとどまらない。
映画を見ていても感じたのだがアニメでいながら驚くほどのリアリティーを追求している。
関東大震災の地面が波打つシーンとか、車の後部座席に人が乗った時、車高が少しずつ沈むシーンなど、驚くほどのこだわりを持って作られている。
ただし、私が感じたのは空を飛ぶ飛行機が少しデフォルメされすぎていて、本物っぽく見えなかったこと。
これはわざとそうしたとも言えるだろう。
こだわったならば飛行機などもっともっとリアルな表現方法がとられたはず。
飛行機に対する驚くほどのこだわりが示された映画として「紅の豚」がある。
同じ飛行機が登場する作品でも、作品を統括するポリシーが違うんだと言うことを表していたはず。
物語が伝えたいもの
物語は若くして結婚した2人が、奥さんが結核で亡くなってしまうことを表現していた。
中睦まじく2人が寄り添うシーンとか、喀血するシーンとか。
この辺のリアリティーはさすが。
少年少女向けの物語なのに大人が見てもちょっとドキドキするくらい。
この物語は何度も言うように叙情詩。
どんな雰囲気で、どんな感じ方をするのかが全てなように描かれている。
数々のアニメヒット作を世の中に出しておきながら、宮崎駿は自分自身の作品を見て初めて号泣したと語っていたね。
この作品は、驚くほどほんわかした雰囲気でまとまっている。
味付けが、療養所とか零戦とか飛行機とかの専門用語が若干出てくるだけで、本質的には恋愛映画で良いじゃないかとさえ思ってしまう。
今さら言うのもなんだが、私は先の紅の豚は映画館でお金を払って見に行った過去がある。
あの作品の映像と、ポリシーにそれだけ感じるものがあったと思う。
今回の作品は他の作品とは違って、宮崎駿の生きてきた時代の総括だったのかもしれない。