この物語の原作は吾妻鏡。
脚本家三谷幸喜が渾身の筆力で描き出す愛憎劇。
歴史的にも複雑な事情が絡んだ時代背景だが、こうして物語として眺めてみるとこの時代の人たちは、よくこれで生きて居られたなと思うぐらいとんでもないストレスにさらされていた。
さて、物語は吾妻鏡に記された通り、2代将軍源頼家が奇跡の復活を果たしたことが発端で様々な事件が起こる。
決して蘇る事はないと思われていた頼家だったが、周りの心配をよそに目覚めてしまうのだ。
しかし、鎌倉幕府の御家人たちはすでに次の手を打った後で、3代将軍擁立に向けて動き出していた。
先週のエピソードはそのことに終始していたと言える。
比企1族は頼家の妻せつもろとも根絶やしに粛清された後。
かろうじて長男の一幡は北条泰時の判断で命を長らえてはいたが、北条義時は非常にも殺害を命ずる。
3代将軍源実朝は朝廷からの了承も得て、御家人たちの頂点に君臨することになる。
すべては、北条義時の想い描いた通りになったかのように思えたが、そのおかげで何の罪もない家来たちが無残にも命を失う。
おそらく当時生きていた人たちは、明日は我が身と腹をくくっていたに違いない。
比企を滅ぼしたことの後始末は、北条にもとてつもなく大きな痛みを伴うものだった。
目次
復活 源頼家
既に助からないことを想定してか、剃髪して仏門に入らされていた頼家。
目が覚めて、自分の髪の毛が剃り上げられていたことにびっくりしただろう。
しかし、奇跡的に復活して再び幕政に戻ろうとする。
最初に彼が求めたのはせつと一幡に面会すること。
しかし、物語では2人ともすでに比企1族の乱で粛清された後。
頼家の希望に答えたくとも、それは無理と言うもの。
周りの者たちは、何とか嘘でその場を取り繕うとするが、やがて嘘をついていることがバレ、厳しい追及を受けることになる。
隠された事実
尼御台として、権威を保持していた政子。
しかし彼女といえども、知らないところで何が起こっているのか推し量ることができずにいた。
特に一幡の助命を必死に願っていたにもかかわらず、弟義時の命令によって全て粛清されたものと。
頼家が蘇ったのはまさに青天の霹靂。
既に事態は、頼家の弟千幡を3代目将軍として朝廷の許しを得る段階にまで進んでいたのだ。
一幡はおろか、頼家といえども幕府にとっては迷惑な存在。
御家人たちは穏便に済まそうと努力し続けるが、徐々に正気に戻りつつある頼家は事実確認をすることによって北条への恨みを募らせていく。
自分の息子や親戚たちの争いを、これ以上大ゴトにしたくない政子。
しかし、今のように情報が速やかに正確に伝わる時代ではなかった。
疑心暗鬼、詭弁、欺瞞。
そういったものが人々の心をより不安にかき立てていく。
頼家は必死に命令して真実を探ろうとするが、結局仏門に入る名目で伊豆修善寺に幽閉されることとなる。
歴史ではこの数年後に、粛清されることになる。
鎌倉幕府の恐ろしいところは、頼家の次男、善哉は後に公暁となって自分のおじさんである3代将軍源実朝を暗殺するに至る。
義時と比奈
北条義時の2度目の妻、比奈は結婚するときにこの先、決して離縁しないと証文を取り付けていた。
比奈は自分が比企1族の出身であることがこの先不都合を生じるとよく理解していた。
比企は1族郎党全て粛清されると納得していた。
鎌倉には残れないと悟ったようで、自ら離縁するように申し入れを。
彼女は北条のために比企にスパイにかり出されていた。
こんな形での恩返しなんてあまりと言えばあまりだね。
歴史的には彼女の2人の息子たちが大いに活躍していたことが確認できたのがせめてもの救いだろうか。
犠牲者 仁田忠常
頼家は激こうしたあまり、北条時政の首をとってくるように命令してしまう。
その命令の間で律儀な家来たちは苦しむことになった。
物語の中で生真面目で優しくてそのくせ力強くたくましい坂東武者仁田忠常が犠牲となる。
自責の念に苦しんだ彼は御所で自ら命を絶ってしまうのだ。
実は、この当たり前すぎる将軍の反応がこの後の悲劇を助長することになる。
物語の流れを見る限り、このまま穏便に物事が済むわけない。
とにかく、人が死にすぎている。
3代将軍源実朝と善哉
歴史書に記された通り千幡は3代将軍源実朝として幕府に君臨することになった。
しかし若年ゆえに幕府の政治は初代執権として北条時政が就任。
さらには、頼家の二男“善哉”も物語に登場。
比企尼がみすぼらしい老婆の姿で、語りかけていた。
描かれたドロドロした事実がこの後の者たちを穏便に生きながらえさせるとは到底思えない。
公暁が実朝を暗殺するようになったとしても何ら違和感は感じない。
源氏の直系はここで途絶えることになるが、鎌倉幕府は北条1族の世襲によってしばらくの間は続くことになる。
それにしても、信じられないぐらいのおぞましい事件が平気で行われるあたり、この時代の人たちの気持ちがどんなものだったか想像することもおぞましい。