今週描かれる物語はとてつもなく重い。
夫優三が戦死、さらに事実を隠さざるを得なかった父直言。
真実を語った直言は安心して逝ってしまった。
容赦ない不幸に見舞われた寅子の心はギリギリで保たれているかのよう。
しかし、寅子には夫優三の死に際を伝える以外なメッセンジャーが。
「寅に翼」を最初から見てきた者にとって初回放送の伏線が今日の放送で回収。
綿密に組み立てられたドラマは転換点を迎えた。
物語は日々の暮らしぶりが主な内容。
弟直明は帝大を目指すほどの秀才だが、戦争のあと実家の窮状を助けるため働きに出ると言う。
この時代、国そのものがまともには機能できてなく職業も定まったものは期待できない。
やはり、ツテに頼るしかない。
寅子には夫の死に際を知る人物も訪ねてくる。
母親はるは寅子の極限状態を心配。
直言のカメラを売ったお金を寅子に渡す。
自分のためだけに使うように。
優しさが寅子には簡単には通じない。
しかし、自分や花江をたとえに出して寅子を説得。
寅子は優三との思い出の場所でついに感情が崩壊。
今回の経験は簡単に受け入れられるほど容易くはない。
この物語の真骨頂はここから。
河原で焼き鳥を包んでいた新聞には、新憲法公布の記事。
そこには何人も平等に生きられると明記。
第一話の冒頭部分が見事に回収された。
目次
猪爪家の窮状
物語の設定は昭和21年10月とあった。
猪爪家は直言と直道、寅子の夫優三が死去。
働き手を失って残った男子は、直明1人。
本当は大学を目指して勉学に励んでいるはずだったが、現実はそのような希望を一切許さない。
直明は自ら働きに出ると提案。
それを否定することなく受け入れるしかなかった女性たち。
なくなった人もそうだが、残った人にとっても拷問のような日々が続く。
察するに自分の感情を殺すことしか時間をやり過ごす術がないように思える。
悲しみにくれたくても、日々の生活はそのような感傷を許してくれない。
今日食べる食物、そして明日以降の生活設計、それらは必死にしがみつかなければ手に入ってこない。
この時代を生き抜いた人たちの苦労は、私のような戦後世代では想像するにあまりある。
闇市利用の実態
物語を見ていて感じるのは、東京などの都市部では食料の調達が購入する以外にほとんど手がなかったこと。
つまり、お金こそが最も力のある手段。
寅に翼に限らずこの時代を描いた様々な物語では、必ずこのような市場の状態などが出てくる。
それは良くも悪くも利用せざるを得なかった。
法律も何も、全く通用しない時代。
この時日本は国そのものが一旦滅んだと見ていいのかも。
アメリカ主導で社会的なシステムから食料の援助に至るまで新しく国家が形作られた時だと思っていい。
猪爪家は女性3人のそれぞれの連れ合いが戦争で亡くなったことになる。
はるの夫 直言。
花江の夫 直道。
寅子の夫 優三。
残された女性たちのことをどのようにして励ますことができると言うんだろう。
優三の最後
優三の最後に立ち会ったとされる人物が寅子を尋ねてくる。
短い時間の知り合いだったが、復員兵の病院でベッドが隣同士だったとのこと。
その時に優三に力強く励ましてもらったことがどうしても忘れられなくて優三のお守りをわざわざ持参してくれた。
小笠原と名乗った彼は優三の最後をしっかりと報告してくれる。
演じた俳優は、細川岳と言って同じ朝ドラの「舞い上がれ」にも出ていたね。
確か人力飛行機のプロペラ班のリーダーだったと思う。
NHK御用達の役者にカウントされているんだろうと思う。
おそらくこれからも様々なドラマで活躍するはず。
まだ20代の前半だと思ったな。
寅子の再出発
河原で号泣する寅子。
思わずもらい泣きしそうになる。
良いドラマなり映画なりは特徴があると思う。
それは役者たちがフルパワーで演技していること。
そして、その演技は決して浮いたり滑ったりしていない。
ドラマ全体をまとめ上げる演出が演技を存分に生かしきれるから。
今回の「寅に翼」も同じものを感じているが、私だけじゃないだろう。
女優伊藤沙莉のポテンシャルが遺憾なく発揮されている。
2人で食べたかったはずの焼き鳥だったが包んでいた新聞にたまたま記事が載っていた。
日本国憲法が発布されると言う。
その中の文章がこれからの寅子のアイデンティティーになってくる。
優三との思い出がよみがえってくる。
再び法曹家として活躍するためにといくらかの時間が必要になる。
寅子のポリシーはいささかも揺らぐことなく前進し続ける。