もう11年も前になるが、
真冬のニューヨークでハドソン川に旅客機が着水する事故が。
後にハドソン川の奇跡としてずいぶん注目された。
その時機長を務めていたパイロットは当時58歳を間近にしたベテラン。
バードストライクによって旅客機の両方のエンジンの推力を喪失するありえない緊急事態。
その時、経験をもとに下した機長の判断は空港に引き返す事はせずに最も手近に緊急着陸すること。
場所は眼下のハドソン川しかないと。
私は、もう何年も前に映画も見たし、様々な特集番組も見たのでよく知っていると思っていたがもう一度映画を見てみると奇跡と言われる理由が改めて確認できるのだ。
目次
映画は監督クリント・イーストウッド主演トムハンクス
事件は2009年1月16日の話、午後3時28分に離陸したUSアウェイズ1549便がバードストライクによって両方のエンジンに致命的なダメージを負ったことによる1連の流れを指している。
離陸直後にカナダガンの群れの直撃を受けた航空機はその場でエンジンに2基を激しく損傷。
エンジンは再点火できるかどうかの厳しい状態に陥った。
当然推力が得られるはずもなく、後は惰性で何とか飛行を保つのが精一杯。
管制官とのやりとりも生々しい。
緊急事態発生 両方のエンジンの推力を喪失。
空港に帰ってくるか?
帰りたいがどうやら無理っぽい。
そんなやりとりがある中で、機長のとっさの判断でハドソン川へ着水することを選ぶ。
ちなみにバードストライクから着水までは4分かかっていない。
およそ3分とちょっと。
もたもたと余計なことをしている暇などまるでないのだ。
しかし、そうはいっても機長や副機長は飛行機の安定を保ちながら、エンジンが再び推力を取り戻せるように何度となくアタックを繰り返す。
結果としてエンジンに力が戻る事はなかった。
この短い時間の中で、ほとんどカンに頼る判断をせざるを得なかった。
また川に着水するとは言うものの、成功する可能性はとても低い。
水面に接地するときの飛行機の速度は時速270km。
レーシングカーの最高速度に匹敵するようなスピードなので、少しでもバランスが崩れれば木っ端微塵。
仰角11。が最も理想的とされていた。
機長はグライダー飛行を続けながら、水面に対して水平にそれでいて仰角11。を全力で保とうと心がけていた。
着水の瞬間機内アナウンスで
衝撃に備えて!
その一言のみを案内するのだ。
映画の中でもその辺がずいぶんとシリアスに描かれていた。
着水は成功するのだが、このハドソン川の奇跡はその後の救助のあり方にある。
夕方の3時半なので周りには仕事をしている船舶なども多数。
目撃した人も多かった。
その彼らが飛行機をそのまま追いかける形で救助に駆けつけたのだ。
救助に取り掛かるまでに4分しかかかっていない。
そして155人全員が抽出されるまでにかかった時間は30分弱ほど。
普通はありえない手際の良さだが、これらの好条件が重なって全員生還が成し遂げられたと言っていい。
着水すること自体ありえないこと
着水するまでが奇跡だとすれば、そこから非常用ハッチで全員を機外に誘導することも大変な作業。
そして水の上だから、救助船ですくいあげてもらわなければやがては飛行機が沈んでしまう。
時間との戦いな事は誰もが納得できるところ。
しかしここでもいくつもの奇跡が重なるのだ。
最初の救助先が到着するまでに4分20秒しかかかっていない。
そしてその後も続々と救助のための船舶が集結する。
機長は最後の乗組員が救助されるまでに2回機内に戻ってくまなく点検して回ったと聞いている。
最後はそれだけの時間が与えられていた。
ハドソン川に着水できたことも奇跡だが、その後の1連の流れはそれ以上に奇跡だったかも。
ニューヨークは同時多発テロの航空事故の記憶がまだ生々しかった
2001年の9月は同時多発テロでニューヨークでは貿易センタービル2基が旅客機の突入によって崩壊している。
この悲惨な事故の数年後のこともあって、ニューヨークの空をめぐるセキュリティーは異常な位緊張感を保ち続けていた。
今回の1549便はほとんど低空で飛行していたために、場合によってはテロと間違えられる可能性もあった。
この年(2009年)はオバマ大統領の就任式の年。
この飛行機の機長を始めとするスタッフは就任式にも招待されている。
実は後日談で知るのだが、この事故は調査委員会からケチがついたことでも知られる。
つまり事故をコンピューターでシュミレーションすると飛行機は何とか頑張れば空港まで戻ることができたと。
映画の中ではこのことをとりわけ重大事項として取り上げていたね。
機長の人為的ミスの可能性が極めて高いと判定される恐れがあった。
しかしこの事故シュミレーションは、バードストライクから空港まで引き返すまでの猶予時間が考慮されていなかったことを直ちに指摘される。
実際の事故ではバードストライクの後、エンジンを回復させるための様々な方策が用いられていてその間は空港へ戻る行動は取れるはずもなかったのだ。
シュミレーションをもう一度空白時間を考慮して行ってみると空港へ帰れる事は絶対に不可能と判明。
たどり着けないのはもちろんのこと、場合によっては街中に墜落する可能性も十分あったようだ。
このことについての詳しい説明が映画の中では語られていた。
実際の調査委員会では、ここまでの厳しい追及はなかったと聞いている。
機体は引き上げられ、エンジンの状態も検証によってきちんと把握することができた。
やはりバードストライクによって致命的なダメージを受けていたことが判明。
このことによって2基あるエンジンが完全に破損してしまったのだ。
この物語は実写の映像も多く残っていて、また映画にもなった。
検証可能な事故としては最近では最も幸運な例ではなかろうか。
映画の中でもトムハンクスが最後まで乗客の安全を確かめようとしていた姿がとても印象的に映っていたね。
大勢の命を預かる職業についている者としてはぜひとも参考にしたい態度だなと映画を見るたびに感じる。