歴史的にあまりに有名な事実を絵描きながら、このドラマは驚くほど時代劇の人間模様のエピソードに徹している。
豊臣秀吉が亡くなった後、わずか2年後に関ヶ原の戦いが繰り広げられた。
歴史のテンポを考えれば、徳川家康の驚くべき変わり身の速さが際立つように感じるが。
どうする家康では、そのような野心家の家康は現れてこない。
家康の本心は、豊臣家は明らかに目障りと感じつつもそれを排除するまでには至っていないのが、ドラマの中から見て取れる。
しかし、歴史の中での素早い身のこなしは、石田三成の存在がある故だろう。
石田三成は徳川家康よりも20才ほど年若だと思う。
2人は明らかに世代が違う。
秀吉が亡き後は、5奉行が政務を司ることになった。
そして5奉行を支える存在が5大老。
家康は5大老の筆頭になる。
秀吉が亡くなった後、政で真っ先に求められたのは朝鮮からの撤兵。
この辺のやりとりも物語の中で詳しく語られていたが、誰が戦さをしくじったかでずいぶんと争いも起こっていたようだ。
はっきり結論から言えば、最大の過ちを犯したのはほかならぬ豊臣秀吉。
彼が日本全体を窮地に陥れた。
そしてその後ぐちゃぐちゃにした世の中をそのままにして勝手に死んでいった。
当時の者たちはそのような認識はしていなかったようだが、家康と秀吉の正室寧々が同じような解釈をしていたものと思われる。
ドラマをざっと見た感じではわかりやすい作りに仕上がっていると思う。
歴史的な事実もきちんと踏襲されていたものと感じた。
目次
秀吉の死
先週描かれた豊臣秀吉の最後。
やりたい放題やって全てを放り出してそのまま死んでしまったときの最高権力者は今考えてみてもまともではなかったと言わざるを得ない。
私はずいぶん昔から晩年の豊臣秀吉はアルツハイマー病に侵されていたと感じている。
記憶が曖昧なこと、さらには独特なせん妄が起こっていたこと。
権力者であるが故に、誰も逆らえなかった厳しい現実があったと思われる。
秀吉がみまかるときの茶々とのやり取りが先週のエピソードで詳しく描かれていた。
秀吉は、ひたすら自分の一人息子の心配のみをしていたと思う。
ちなみにこの辺のエピソードは、歴史ドラマのどんな作品を見ても皆同じような描かれ方をしている。
秀吉が必死で自分の家臣たちに頭を下げる惨めな描かれ方。
どうする家康では、そのような通り一片の見方では描いていなかった。
特に徳川家康に対して、秀吉が放った一言。
どうせ、おめぇさんが天下を奪うんだろう!
決して答えようとしない家康。
徳川家康は、豊臣秀吉がまともでないと知りつつじっくりと腰を据えて、あえて好きなようにさせていたとも受け取れる。
この辺から徳川家康は、たぬきとあだ名されるように。
朝鮮撤兵
朝鮮出兵は、豊臣秀吉の最大の過ちだと断言できる。
結果としては、勝ち目のないいたずらに疲弊するだけの愚かな戦さだった。
秀吉が死んでしまった事はある意味兵隊たちにとっては助かったことになるのでは。
敵国の反撃にあった兵隊たちは、想像を絶する困難を味わった。
このことについて今日のエピソードの中で詳しく語られていた。
石田三成と帰還兵たちのやりとり。
いかに天才と呼ばれた三成といえども、現地で戦ってきた兵隊たちの苦労など知る由もない。
帰ってきた兵隊たちは三成の余裕のある対応を激しく憎悪した。
この時三成は加藤清正らに暗殺未遂事件を起こされる。
その時三成が逃げ込んだのが徳川家康の屋敷だった事は歴史にも伝わる。
この物語において徳川家康は、この時点でまだ石田三成の政治的な手腕を応援する気でいたようだ。
2年後に関ヶ原の戦いが起こることを考えれば、この時点で豊臣政権を見限っていても良いようなものだが、物語ではそんな単純な描かれ方はしていない。
石田三成の評価
石田三成は戦場で力を発揮するタイプの武将ではない。
彼は運搬とか物資の補給とかが得意な実務タイプの武将。
戦地で刃を交えた兵隊たちとは、明らかに種類の違うタイプの人。
豊臣秀吉は、石田三成の実務能力を高く評価していた。
ただし、三成の周りの者たちはそのようには受け止めていなかったが。
物語の中では、著名な戦国武将たちが山ほど登場。
特に重要なのは、毛利輝元、上杉景勝、さらには宇喜多秀家や前田利家など、歴史の授業で習った武将たちが続々登場してくる。
当時の戦国武将は皆豊臣秀吉の力に屈服して臣下になった者たち。
秀吉が亡くなってしまえば、立場はかなり曖昧なものになる。
豊臣家に忠誠を尽くすと語ったところで心の底からそのような行動を心がけていたのは石田三成1人だけだったのでは。
石田三成が関ヶ原の戦いに負けて京都の六条河原で処刑された時はわずか40歳。
武家の習いとは言え、あまりにもはかない命だったと言える。
徳川家康の底力
徳川家康はこの当時、既に全国でも右に並ぶ物のないほどの実力を備えていた。
今日から描かれた徳川家康を演じる松本潤は、演技の仕方もがらりと変えてきたような気がする。
今までのような感情が激昂するような演技をしてこない。
穏やかで声もどちらかと言えば小さめ。
しかし、並々ならぬ決意を目の奥に宿しているような。
石田三成とは本当は似たもの同士で様々な事柄を話し合ってみたかったんだろうと思う。
歴史は驚くほど冷ややかに彼らの明暗を分けた。