鎌倉幕府が成立するにあたり、その裏側のドロドロした人間模様が描かれる。
吾妻鏡にも出てくる有名な亀の前事件
頼朝の愛人だった亀に嫉妬した正室政子が起こした事件とされる。
そのいきさつが三谷幸喜の巧みな脚本によって詳しく、さらにユーモアたっぷりにそれでいてシリアスに語られる。
元々の発端は源頼朝の女癖の悪さ。
英雄色を好むではないが、彼は手当たり次第女に手を出してしまう悪い癖があったかも。
武家社会の習わしとしては、英雄が色を好むのは当然至極なこととして受け入れられていた。
それは武士のたしなみとも。
それを認めろと言われた奥方たちにしてみればたまったものではない。
今風に言うなれば浮気そのものなので、大義名分などあろうはずもなく。
さらに、浮気をする本人も奥方に対して後暗い気持ちがあったのだろう。
大事にならないよう気を使いつつ、しかし自分の楽しみはしっかりと追求しつつ。
今ならほとんど笑い話のようなものだが、当時としては皆 大真面目。
物語は当時の不思議な習慣も合わせながら、源氏の棟梁としての頼朝の普段の生活や、政子に長男が生まれることなど、エピソードを類推しつつ描かれることになる。
目次
政子長男誕生
物語の中で何気なく描かれていたが跡継ぎが生まれることに際して、様々な催し物があったようだ。
それは宗教的儀礼だが、物語の中でも詳しく語られていた。
生まれる前に様々な儀礼が執り行われ、さらには生まれてからもお守り役その他が1族で決められることになる。
時代考証をしっかりやって物語の中に取り込み、ストーリーとして仕立てる。
政子は無事男子を出産するが、母と子供が一緒にいるのは意外と少ない時間だったかも。
守り役がきちんと建てられるので、そこでお世話はされるがまま。
母と子供でやったほうが絶対いいと今なら思うけど、この当時のご時世では身分の高貴な人になればなるほど、わざわざこんな約束事を持ち出して親子が離れ離れに過ごすことを推奨したようだ。
母親が子育てなどで父親から隔離された後、父親、この場合頼朝になるが彼は自分が独身暮らしに戻ったことをいいことにやりたい放題。
もともと女好きな性格。
義時も知らないうちに亀のためにこっそり屋敷を用意する。
要するに自分の息抜きとか快楽のために専用の場所を設けたってことだよな。
武士の棟梁なんだから、それぐらいの事は当然しごくと思う向きも多かったような。
愛妾 亀
亀を囲っている事は本来内緒のはずだった。
しかし鎌倉に幕府を作った頼朝にとってはそれほどきちんとしたセキュリティーがあったわけではなさそう。
内緒にすればするほどボロが出てついには鎌倉中に知れ渡ることに。
最初に情報が漏れたのは政子の妹実衣に。
さらに父の後妻りくに。
実は、彼女には京都で宮中の生活を長く経験してきた兄がいた。
その兄に情報が漏れたことで、問題はややこしくなる。
本当はバラしてはいけないんだけど、あなたのことを思って忠告しておくと。
頼朝には愛人がいるようだ。
誰❓と政子
直球勝負の質問だけど、答えないわけにはいかない。
情報をばらすと同時に、その当時の京都の習慣で妻は夫の愛人の家を多少壊すことが許されるらしい。
そう吹き込んで、亀の住まいを打ちこわしにかかる。
情報を事前に察した北条義時。
事態を穏便に済まそうと散々手を打つのだが全て裏目に出てしまう。
どんなに隠してみたところで、ばれてしまったのでは如何しがたい。
義時は事態を未然に防ぐために亀の前の住まいの護衛を義経に頼むことに。
これがまた致命的な失敗となって跳ね返ってくる。
住宅を打ちこわしにやってきたりくの兄は、義経も巻き込んで住宅を壊しにかかる。
これが実にまずい結果で、ほんの少し壊すはずが家は全壊、さらには火を放って全てを燃やし尽くしてしまう有様。
頼朝もこのとんでもない仕打ちに思わず絶句。
ここまでやるか⁉️
この辺の描き方のユーモアが三谷幸喜らしさ。
この後どんなふうに落とし前がつけられたまで、物語の中では詳しく語られていたと思う。
頼朝は関わった者全員を呼んで厳しく罰することになる。
しかし、元はと言えば頼朝の女癖の悪さが招いたこと。
どのような処分を繰り出したところであまり説得力を持つとは言えない。
言葉の選びようによっては自ら墓穴を掘ってしまうような。
やはり、慎むべきところは控えておかないとね。
八重と義時
義時は自分の領地を持ったことで行き先のなくなった八重を引き取ることになった。
その時真っ先に尋ねられたことがある。
父親と兄がなぜ死んでしまったのかその理由。
北条義時にとって話しにくい部分ではあるが、物語のキャラクターとしての義時は正直に話すことで、何とか理解をしてもらって納得していただこうと画策。
命令したのは鎌倉殿。
鎌倉には戻らないほうがいい。
ここでおとなしく暮らしていて下さい。
しかし、そんなセリフも虚しく一蹴される。
八重は頼朝が手を下したことぐらい既に承知していたと。
息子千鶴丸を殺された事は八重にとっても頼朝にとっても仇以外何者でもない。
その仇討ちをしたのだと。
様々な経験をしつつ、人間関係の機微を学んでいく北条義時。
亀の前 襲撃事件
襲撃後視察に現れた頼朝。
状況を見るや、すぐに犯人探しを命じる。
犯人は簡単に見つかっちゃうんだよね。
当時の鎌倉は今ほど大きな街ではないので、住んでいる人もおのずと限られるわけで、それぞれの人々の行動も思ったよりはずっと明らかなまま。
全体の流れをほぼ間違いなく理解する頼朝。
罰する者、謹慎させる者。すぐに判明するが、自分の罪はどうなんだろうとそういう意見も多いね。
頼朝にしてみれば罰の悪さだけが残った事件だったかも。
歴史の裏側女たちの自己顕示欲
りくは北条時政の妻だが、彼女が夫をそそのかして、様々な事件に関わっていると最新の研究。
それというのも周りにいる女たちの中でも、自分が1番と言う意識が強かったかもしれない。
彼女らしいプライドがあって、そのためには手段を選ばない行動をすることも。
本当は何も語らずに口をつぐんでおけばよかったものを、亀の前事件では彼女が重要な役割を演じていた。
彼女も自分自身が権力を握りたいとぎらつく欲望が抑え切れない。
歴史的には疑問の残る予知だが源頼朝もこの後暗殺される運命にあるようだ。
頼朝は落馬してその傷がもとでなくなったとされているが、暗殺の疑いは今でも消えたわけではない。
物語は史実を踏まえながらも、脚本の独自な解釈を加えつつ、興味深く描かれる