物語は、歴史的な事実を変えることなくギリギリの線でエピソードを展開。
徳川家康の歴史の中でも、史実がはっきり伝わらずに謎の部分がいくつかあるが、ここ何回かのエピソードで描かれる内容は、まさにそれに相当する。
徳川家康の正室瀬名と長男信康が家康によって粛清された事は、あまりに有名な事件。
しかし、それだけ重要なことであるにも関わらず、意外と詳しいいきさつなどはわからないことが多い。
よく聞く内容では瀬名こと築山殿と家康の夫婦仲が悪くなりかけていたとか、長男信康が粗暴な性格で周りのものから見限られていたとか。
様々な考察が乱立するが、実際のところは全て想像に頼るしかない現実。
どうする家康では、瀬名と家康の夫婦仲はいささかも悪くなっていない描かれ方。
ただし、瀬名は夫に内緒で様々なことを画策。
それは成功すれば、当時の世の中を一変するような画期的な方法になるはずだった。
しかし、様々な戦国武将が鍔ぜり合いをする当時のご時世では、誰にもバレずに計画を実行しなければならない必要が。
それは思いのほかうまくいっていたはず。
「どうする家康」は、物語の登場人物に巧みに役割を与える。
当時設楽が原の戦いで大敗を喫したとは言え、武田勝頼は未だ有力な勢力を誇っていた。
彼をスケープゴードにして、計画を全てばらしてしまう。
どうやら、今日の物語から、徳川家康のキャラクターは少しずつ変化する可能性も見え隠れする。
目次
築山で密かに起こった事件
家康が知らぬ間に、岡崎は主な役割の人員配置ががらりと変えられていた。
先週あたりから特に描かれた通り、瀬名は思うところがあって密かに実行しつつある計画があった。
それは、彼女が子供の頃から憂いていたこと。
つまり、戦いによって大勢の人たちが殺し合い命が失われていくことに終止符を打ちたい。
そのために、自分の考えを大勢の人たちに解いて聞かせる必要が。
そして、それは、可能な限り秘密裏に行わなければならない。
秘密の計画とは恐れ行ったもので、周りの人配置をがらりと変えてしまえば帰って目立ってしまうだろうと思う。
しかし、この物語の設定はこういったことで統一されているのでそこから物語が発展することになる。
瀬名の計画
瀬名の考えでは、人は暮らしていくために欲しいものがあれば他所から奪ってくる。
これが、戦の全ての原因だと。
今も昔も変わらぬ真実だが、人間は過去からどうしてもこのジレンマから抜け出せずにいる。
瀬名は誰かが困っているなら、救いの手を差し伸べるべきだと。
そして、こちらが困ったときには、逆に救ってもらう。
そうすれば、争うことなくお互いが共存反映することができる。
例えば、品物で言うならば、その土地土地の特産品があるが、それをお互い交換し合う形で共存してはどうかと考えた。
さらには流通する貨幣も統一することができるなら商売もやりやすく、より発展することが望める。
正論中の正論だが、実行がかなり難しいのは一目瞭然。
しかし、大勢の仲間や家族たちを失ってきた瀬名にしてみれば、命がけで取り組むべき値打ちのあるものだったようだ。
私には覚悟ができている
瀬名のセリフに嘘はなかっただろう。
ただし、この設定はあくまで脚本家の創作であることを忘れてはいけない。
徳川家康の様々な記述の中で、この辺の事情は汚点として隠されている。
後世になってから都合の良いように大幅に改ざんされた可能性も否定できない。
しかし、「どうする家康」はこの設定を採用したことで、間違いなく時代劇として面白く仕上がっている。
武田家家臣穴山信君と千代
本当は瀬名を凋落するために、武田から派遣された穴山と千代。
しかし、彼らは逆に凋落されてしまった。
この時代、大抵の人は、殺し合うことに辟易していたのだ。
自分の愛するものが死んでいくのを簡単に受け止められる人などいない。
ましてや、自分の命すら危うい時に進んで戦おうとするのは馬鹿げたことなのかもしれない。
穴山と千代の説得によって武田勝頼も、一旦はこの作戦に乗ってきた。
やはり、戦うだけでは、到底国の繁栄は望めない。
この物語では瀬名はどこまでいっても家康のマドンナ。
家康はこれから大勢の側室を抱え、20人以上の子供を設けることになる。
しかし、その家康といえども瀬名だけは特別な存在だったろうと思う。
この部分の歴史的な記録が大きく失われているのは、後世の歴史を考察するものに対する宿題なのかもしれない。
世の移ろい
この時代、情報収集こそが、作戦成功の重大なポイントであることに気がついていた武将は多かっただろう。
その筆頭格は武田信玄だったはず。
息子武田勝頼は、父親のやり方をそっくり真似していたと思う。
さらには、物語の主人公、徳川家康も情報収集には並々ならぬ熱意を見せていた。
誰がいつどこで何をするかがあらかじめわかったなら、こんなに対応しやすい事は無い。
描かれたエピソードの中で、服部半蔵が自分の手下と会話するシーンが描かれていた。
物語の中では外側に位置するエピソードだが、当時も今も変わらない価値観がさらりと表現されていたと思う。
おそらくこれからもこの物語に登場してくるだろう。
前の大河ドラマ、「鎌倉殿の13人」で女暗殺者トウが描かれていたが、共通していると思う。
武田勝頼の逃れられない運命
武田勝頼は、和平によって世の中の安穏をもたらすことが理解できなかったようだ。
父親を超えるだけの武将になることこそが自分の進むべき道と信じて疑わない。
勝頼によって、すべての秘密が暴露されてしまう。
なるほど、そうなると瀬名と信康の粛清は、武田勝頼のせいと言うことになる。
史実はわからない訳で、この設定にもあながち異を唱えることはできない。