時代を象徴する物語の内容。
おめでたがわかった寅子は、昨日のエピソードで描かれた母校での講演会直前に倒れたことで妊娠の事実が発覚。
寅子的には発表できずに時間が過ぎてしまったらしい。
本当は自らの口できちんと報告したかったに違いない。
女性の弁護士として社会的に認められるためには妻帯者であることが条件。
しかし、男性と違って女性の場合、子供ができる事実が伴うと見て良い。
子供ができてしまえば、主な活動はすべてストップせざるを得ない。
寅子のように全力で仕事をする妊婦は常に体調に気を使わなければどんなトラブルが起こるかもわからない。
倒れた時は妊娠3ヶ月程度と推察。
お腹も目立ってはいないので、黙っていれば誰にも知られる事はなかったはず。
結果としてはみんなが知るところとなり、寅子は自分なりのけじめをつける必要に迫られる。
それはよねとのやりとりで、罵倒されたことで最悪の事態を。
先のことを考えれば、いずれ弁護士として活動はできなくなってしまう。
それならば早い時期に身を引くしかないのでは。
結局雲野法律事務所に辞表を提出。
寅子が進んだ地獄はどこまでいっても地獄でしかなかった。
母親はるとのやりとりが切なく苦しいものに。
ぽろぽろ泣きながら弁護士活動に必要な書籍を片付ける伊藤沙莉の渾身の演技は見ているものも思わず涙ぐんでしまう。
寅子を罵倒するよねも、自分がやるべきことに全精力を傾けていて寅子のおめでたを素直に祝福できない。
そして寅子には女の子が生まれる。
優未と名付けられた子は最後のほうに登場。
目次
おめでたの波紋
本当は自分の口から妊娠を告げたかったに違いない。
寅子の思惑は見事に外れる。
当然のことながら事務所の人たちは、寅子にそのまま仕事を継続させることにはならない。
うっかり穂高先生に話してしまったことが間の悪さを生んでしまう。
よねは自分が女であることを捨てた身の上。
人には知られたくない彼女だけの苦く辛い思い出。
寅子は自分の妊娠を周りに告げる場合、デリケートな配慮がどうしても必要だった。
寅子とよね
寅子の妊娠を知ったよねは寅子のおめでたを受け入れることができない。
仲間の思いを受け止めて、女性弁護士として活躍する。
そのことにもよねは取り立てて思い入れは無いと語っていた。
結婚したければすればいい。
子供を産みたければ産めば良い。
しかし、幸せオーラを撒き散らしながら自分の周りをうろつかれるのは迷惑だと捉える。
よねが感じるだろう反発心は寅子も気がついていた。
そのせいもあって告白できずにいたわけで。
案の定よねの怒りは頂点に。
寅子は大切な仲間、数少ない同志のはずだったがもうそうはいかない。
困っている人たちを助けるために弁護士になったはずだが寅子とよねの立ち位置は若干異なる。
寅子は誰かのためにという思いが強いのに対し、よねは自分自身の味わった不幸な体験が弁護活動のベースに。
先のことを考えれば子供は数ヶ月先には生まれてしまう。
そうなれば、まともに仕事なんかできるはずもなく。
寅子とよねがこの先和解するためにはおそらくかなりの時間が必要になる。
1人称で仕事をする者と3人称で活動する者とでは明らかに相入れないものがあるんだろう。
2人には悔しさしか残らなかったに違いない。
寅子の苦悩
子供が生まれることを視野に入れれば仕事にはけじめが必要になる。
この時代、女性が家庭のことをしつつ仕事をすることなど至難の業。
寅子が下した決断は退職すること。
現代でも子供を産んで育てながら仕事を続ける事はかなり骨の折れる作業になる。
もちろん育児休暇や産休など社会的には取り決めがあるが、実際に働いている女性は、そういった制度を利用するのに後ろめたい気持ちを抱くことも事実。
当然の権利として大威張りで主張できるとは限らない。
昭和18年から19年にかけてだとまだ明治の頃の考え方が全てだったはず。
法律なども全く整ってはいない。
よねが寅子に言い放っていた言葉。
お前は男に守ってもらうのがお似合い。
二度とこちらに来るな‼️
寅子にとってこれ以上の屈辱は無い。
物語の流れを考えれば、退職する以外に取るべき道はなかっただろう。
それにしてもおめでたいことのはずがこんな苦しみの元になるなんて、一体どう受け止めるのがいいんだろうか。
私はどうすればよかったの?
よねに尋ねた寅子に対する答えは
知らん!
自分で考えろ!
わが身に降りかかる不幸を誰かのせいにしていたなら、こういった事は間違いなく答えは見つからない。
働く女性の問題として、今でもしっかり残る大切な課題だろう。
世の中は少子化対策でずいぶん議論も活発だが、答えが出るような話は全く聞こえてこない。
今の人たちは子供を産んで育て、家庭を持つ事はリスクとしか捉えていない。
フリスクは避けるのが良いと考えて当然。
戦前のドラマながら、現代にも通じる様々な問題提起がなされる。
昭和19年春
終戦の前年、この頃日本は学生その他国民のうち男性のことごとくを徴兵するしかなかった。
勝てるはずのない戦い。
しかし、戦争はもうじき終わることをまだ誰も自覚できていない。
勝てると思っている人は少数派だっただろう。
しかし、国の趨勢に逆らえる人がいなかったのも事実。