喫茶店のマスター田中さんが一旦発注したテーブルと椅子の注文をキャンセルしてきた。
実はそのことに対するその後のエピソードが語られることでおかえりモネが語ろうとすると思い命題が解き明かされる。
田中さんは末期の肺がん。
物語の2015年当時の医療では助かる可能性はほぼないと思われた。
頑張って残りわずかとなった命と向き合う患者と、その患者を支える周りの人たちとの切ないやりとり。
脚本家の“安達奈緒子”さんは『透明なゆりかご』でも同じように命と向き合うストーリーを作り上げていた。
今日は物語の中で、命の値打ちについて深く考察する。
目次
トムさんが語る昭和の倫理観
田中さんから思いがけずキャンセル依頼が届いたことを受けて、心配になったモネちゃんは思い切って喫茶店まで足を運んでみることに。
そこで語られたのは田中さんがかつて過ごしてきた迷える青春時代。
どうやら奥さんと子供がいながらもあちこちで浮気をしていたらしい。
昭和ではあちこちでそういったことがあったとの報告は、同じ昭和を生きたものとして納得できない部分もあるね。
昭和はそんなふしだらな人間ばかりではなかった。
確かに自分に自信が持てなくて、あちこち迷ったあげく今に至る人は多いのかも。
モネちゃんは田中さんの様子を心配すると同時に、森林組合として一旦決まった注文をキャンセルされることがどれだけ大きな被害を受けるか、よくわかっていたみたい。
この業界で仕事をしてきた私にはよくわかるが、日本人てどうしてこう気持ちがコロコロ変わっちゃうんだろうと。
注文のキャンセルもよくあったけれど、とにかく多かったのは注文の仕様の変更。
小さくしてくれって言うんならまだ何とかなるが、大きくしてくは絶対無理になる。
納品のギリギリ前までそういった連絡が入ることが多かった。
もし、材料の準備ができてからのキャンセルを受けたとすれば、その作りかけの材料はその後生かされる事はほぼない。
かくして、このような木材業者は使い道のない端材を山ほど抱えることに。
まだ勤めて2年目程度の新米の職員だけれど、モネちゃんはこのことを防ぐ意味でもしっかりと仕事をしている。
治療の限界 激こうする菅波先生


診療所に帰ってから菅波先生に田中さんのことを報告するモネちゃん。
そしてなんとか力になってやれないのか?と詰め寄る。
今日の物語の一番の見所がここから。
医療従事者としてどうしても超えられない限界が提示されている菅波先生は自分の苦しい思いをストレートにぶちまける。
あまりの剣幕に思わずたじろいで涙するモネちゃん。
田中さんには残された治療方法は無い
僕自身も田中さんも知っている!
ここから先の治療は緩和治療しかない事は素人でもなんとなくわかる。
それでも、それなりの可能性はあったりもするので、医者と患者は協力して病気と向き合える可能性がある。
医療は一方的に患者がサービスを受けるだけの体系では成り立たない。
医者は医療を提供する側だが患者とペアになって共同作業を行うと言うのが正しい認識だろう。
実は介護の現場ではずいぶん昔からこの事は講習会等でもよく提示される。
サービスを受ける人はサービスしてくれる人と共同で様々な課題をこなしていくのだ。
もし、信頼関係が生まれるとしたらこの辺に生じるはず。
サヤカさんの提言
菅波先生とのやり取りですっかり凹んでいるモネちゃんに老婆心ながらアドバイス。
年寄りは余裕綽綽で生きているように見えるかもしれない。
しかし、中身は若い時とほとんど変わらない。
悩むことも多いし、苦しむことも多々あるんだと。
思いがけない言葉に気持ちを落ち着かせることができたモネちゃん。
田中さんへのアプローチはいろんな可能性をまだ模索できるスペースがありそう。
説得 迷うための時間を作る
たまたま日曜日、喫茶店にやってきたモネちゃん。
田中さんのお世話をしていたところが突然菅波先生が訪ねてくる。
思わず居留守をきめこんで、田中さんと菅波先生のやりとりに聞き入ることに。
多分菅波先生にとってはじめての挑戦だったかもしれない。
治療方法が残されていない患者にこれから迷うための時間を作るための治療をやってみないかと提案。
いくつになっても今これから死を迎えるばかりだとしても、人は自分の進むべき道を逡巡し、悩み苦しむのだと。
そしてその時間はある程度長く取ることができれば自分なりの結論を出せる可能性も出てくる。
迷う時間を作るために少し頑張ってみるのもどうかなと。
思いがけない問いかけに自分の生き死にをさらに追求しようとし始めた田中さん。
物語の中では、あと数ヶ月後の夏まで何とか生き延びたいとの願いが叶えられるかどうか。
そのための治療ならばやってみる価値はあるよなと考えたようだ。
舞台は森林組合と、そこに併設された診療所の医者と患者、職員の普通にありそうな設定。
このさりげなさこそがおかえりモネの値打ちなんだろうなと感心する。
さらりと描かれてはいるが、数ヶ月後の命が約束されない末期のガン患者がそこには歴然と存在している。
それぞれの登場人物の思いが語られる中で、物語は重いテーマをきちんと表現できていた。