この数週間で「らんまん」は物語の方向性がしっかりと形作られることになる。
時代は明治初期。
土佐弁丸出しの植物学者槙野万太郎は、かつてないほどの苦境に陥っていた。
植物研究をさらに推し進め、日本で最初の新種植物の名づけ親になること。
どうやらその目標が達成されかけたときに、大きく立ちはだかる時代の荒波が。
先週後半から描かれ続けてきた東大の田邊教授との関係が決定的に決裂してしまう事態に。
万太郎は東大の植物学教室への出入りを封印されてしまった。
植物研究での主な作業は検定になるが、そのためには膨大な量の植物標本と参考文献が必要不可欠。
それらの資料はこの時代、東大と博物館に収納されていた。
万太郎は、様々な研究作業を東大に自由に出入りすることで可能にしていたが、出入り禁止となれば研究そのものが立ち行かなくなってしまう。
何とかして教授との関係修復を画策するが、全て失敗に終わる。
そんな中、妻寿恵子と長女園子との心温まる日々が続いていた。
悩んだあげく万太郎は、自分を唯一評価してくれるロシアのマキシモヴィッチ博士を頼ることに。
そして、重大な決心を家族に告白、皆が一丸となって、ロシア行に向かおうとしていた矢先。
物語は、ここへきてすべての不幸が一気に噴出することになる。
目次
ブラック田邊のメンツ
初代明治政府の総理大臣に就任したのは、言わずと知れた伊藤博文。
その時の文部大臣が森有礼。
彼はこの頃の明治を代表する政治家。
様々な業績もある中で最後は刺殺されてこの世を去ることになる。
日本の著名な政治家で黄変死した人は多いと思う。
初代総理大臣だった伊藤博文も然り。
これ以降いろいろな場面で政治家の命は様々な危険にさらされることになる。
ブラック田邊はコーネル大学への留学を森有礼の力によって国費で賄うことができた。
それらの恩義があるゆえに田邊は明治政府の様々な仕事を請け負うようになっていたのだ。
東大の教授を始め他の学校の校長など森有礼に請われるままに受けることになる。
しかしながら教授の目標とすべきは日本にしっかりとした植物学の礎を築く事。
小学校すらロクに出ていない万太郎だったが、万太郎の植物に対する造詣は田邊にとって憧れと同時に嫉妬でしかなかった。
万太郎が取り組んでいる植物図鑑を自らも作り出したい。
思いは、結果として万太郎を排斥する形でしか表せなかった。
万太郎のとるべき道
東大に出入り禁止となった万太郎にとっては、研究活動そのものができなくなることを意味する。
考え上げたあげく万太郎を評価してくれる博物館の2人の先生に意見を求める。
しかし、東大と博物館はお互い連携した機関なので万太郎の受け入れは不可能な事は明らか。
2人の先生は、万太郎に同情の気持ちを示しながらも、万太郎を本当に評価してくれているのは日本ではなく外国だと諭す。
そして、外国に赴くことで研究活動を続けられるのではと進言した。
この頃日本を離れて外国に行くなど、今なら宇宙旅行に匹敵するぐらいの勇気が必要なのでは。
しかし、考えれば考えるほど研究を続けられる環境は日本ではないと思い知らされる万太郎。
ロシア行き
万太郎は悩んだあげくロシア行きを決意。
勇気を振り絞って寿恵子に相談する。
寿恵子にとっては、万太郎の冒険に乗っかることこそが、自分の大冒険だと信じていた。
そのために家族を設け、様々なお金の工面も受け入れる。
特に十徳長屋で印刷所を開設することなど寿恵子の決断によってできたことも多い。
今回のロシア行きも、聞かされた当初は驚いていたが、話を聞けば彼女なりに納得できるものがあったようだ。
何よりも彼女自身が冒険物語の主人公になった気分。
心配な事はあるが、ワクワクドキドキする気持ちは何にも変えがたい。
園子 死す
万太郎たちがロシア行きを決めたとき、園子は発熱が止まらない状態が続いていた。
実は麻疹にかかってしまったのだ。
乳幼児の死亡率はかなり高い。
もうすぐ2人目が生まれると言う時に、あっけなくこの世を去ってしまった園子。
万太郎や寿恵子にとっては到底受け入れられない不幸だった。
万太郎のモデルとなった牧野富太郎博士の妻寿衛さんは 13人の子供を設けている。
しかし、そのうちきちんと育ったのは7人だけと伝わる。
この時代は、子供の死亡率は高かった。
また、日本人の平均寿命自体もそれほど長生きできる頃ではなかった。
物語はここへきて様々な不幸が一気に吹き出る形。
頼みの綱のはずだった峰屋
峰屋が久しぶりに登場したのは、万太郎がロシア行を決めるにあたって、旅費だけは何とかお願いできないかと考えたから。
峰屋は厳しいながらも穏やかな経営ができていたはずだった。
しかし、ごくまれに起こることながら酒の製造過程で、腐造を出してしまう。
販売可能な酒が全て失われてしまう。
そして、この時代造石税の存在が峰屋の息の根を止めた。
綾と竹雄は峰屋を清算。
今週描かれたらんまんは史実をたどりながら、様々な不幸が一気に吹き出る形を描ききった。
不幸を引きずりながら物語は来週になだれ込む