残りわずかとなった。らんまん。
ついに理学博士の称号が授与されることになった。
描かれた物語では、博士号授与に対する羽多野や藤丸、寿恵子の様々な思いが語られた。
なんとなく想像できたことだが、万太郎は博士号授与を話のあったすぐ後で断っている。
自分の目的がまだ達成されていないこと。
それが最大の理由だと言う。
そこでの様々なやりとりこそが、今日の物語の真骨頂だった。
しかし、このドラマを長く見ている私たちは万太郎と寿恵子におそらくこれから訪れるであろう運命について様々な考察をすることができる。
寿恵子が重篤な病に侵されている事はほぼ間違いない。
そして今日は描かれなかったが、どうやら寿恵子の病気の内容が明らかになっているような雰囲気が匂ってくるではないか。
そして、物語の昭和3年はらんまんに登場してきた様々なメンバーたちがほぼ晩年を迎える頃。
万太郎を何度も救った徳永教授は今や名誉教授に就任。
物語を見ていて感じたのは、登場人物それぞれが歳をとったメイクをしているが、徳永を演じていた田中哲司が1番雰囲気が出ていたような気がした。
しかし、この物語の本質は、夢を追いかけて大冒険を成し遂げてきた夫婦2人の愛情物語。
寿恵子は万太郎のために研究場所を提供できたことこそが、自分の冒険の達成だと宣言していた回があった。
そして、ついに万太郎は自分自身の目的達成の最終段階に入った。
目次
羽多野と万太郎
万太郎が博士号授与を辞退したときの羽多野とのやりとりが実に見事だった。
万太郎は自分に資格がないことの理由をたくさん挙げていたが、羽多野は尻込みしている万太郎に対して傲慢だと一刀両断。
つまり、万太郎が今まで成し遂げてきた数々の業績は万太郎1人でできたものではない。
大勢の協力があって初めてできたこと。
いまや万太郎は世界中見回しても、これだけの植物分類学の専門家はどこにもいないとのお墨付きを得ている。
そしてそれだけ偉大な植物学者を正しく評価できない日本の植物学会はその見識を疑われてしまうのだと。
太郎は学者として博士号を取得する責任があるのだと。
確かにそこまで言われれば万太郎としても受け入れざるを得なかった。
この時、羽多野だけでなく、かつて大学時代お世話になった徳永名誉教授も力になってくれそうな。
2人のやりとりが驚くほど新鮮にしかも正当性を持って見ているものに訴えかけたのには、人にはそれぞれふさわしい振る舞いがあるのだと改めて時間を超えて教えてくれている。
寿恵子の気持ち
寿恵子は尻込みしている万太郎に言ってのける。
理学博士の称号をぜひ受けるべきだと。
世界的に有名な理学博士が、満を持して図鑑を発行するのだから世界中が注目するはずだと。
そうすれば本は完売間違いなしで増刷のオファーが止まないはずだと。
なるほど、ここへ来て寿恵子は商売人のしたたかな根性をチラリと覗かせる。
万太郎や羽多野たちは言ってみれば学問オタクなので、そんな商売のカラクリなどわかるはずもない。
ここでのやりとりの面白さは秀逸だった。
それぞれのキャラクターが際立つ形での脚本。
ともすればちょっと重たくなりがちな最後に笑いを誘っていた。
寿恵子と万太郎
残りわずかとなった物語の伏線がここに貼られている。
授与式用にお互いの新しい服を作ることにした。
その時万太郎は寿恵子に確認の意味で1度病院に行こうと持ちかける。
なんともないと言い張る寿恵子に大丈夫ならば、それで安心だからと説得に成功した万太郎。
その時の様子は物語では描かれていなかったが、その後の物語の流れである程度検討がつくじゃない。
縁側で万太郎と寿恵子がたたずんでいるシーン。
あの時のもの憂げな2人の様子は明らかに重大な事実を知っていたかのような振る舞い。
勝手な想像になるが、2人の年齢を考慮して、寿恵子に見つかった病気について医者からきちんとした説明なり告知なりがなされたものと推察する。
やはりこの物語は思った通り寿恵子は亡くなってしまう運命なんだと理解するしかない。
理学博士号授与
演壇に立った万太郎の勇姿を誰もが求めていたはず。
彼をこの場に立たせることこそが、日本の植物学会にとっては責務だった。
万太郎は博士になることで、新たに責任の重さを実感することになる。
挨拶の中で、自分を支えてくれた人たちへの感謝の気持ちをまず述べていた。
最初に感謝すべきは妻の寿恵子。
彼女がいなければ、今の万太郎などありえない。
そしてその時の寿恵子はうっすらと涙を浮かべていた。
もちろんだと思うが、自分が万太郎よりも先に旅立ってしまうことを受け入れるしかなかったことへの感慨だったかもしれない。
さて、物語は明日と明後日の2日で終了する。
この物語の本当の値打ちが今ここにつびらかになろうとしている。