ジャズカルメンの公演は大成功に終わった。
しかし、スズ子には気がかりなことが。
それはスズ子の最愛の愛助がついにステージを見に来れなかったこと。
そして物語は昭和22年5月。
実はこの時が何を意味するかを我々よく知っている。
スズ子はちょうど出産日を間近に控えていていつでも生まれてくることを想定した準備を。
愛助から届く手紙はいつの頃からか葉書1枚になって簡単な文章が数行あるだけ。
「少しずつ良くなっているから」とまるで説得力のない文面。
さすがにスズ子は愛助のことが心配でたまらなくなってきた。
医者に大阪に行ってきたいと願い出るが、医者の立場では出産日がもう10日ほどに迫ってきているのでとても許可できませんと。
スズ子は愛助の詳しい事情を知るために、山下と坂口を問い詰めることにした。
この2人は何か隠していそう
スズ子の読みは正しく、山下がつい口を滑らせて
愛助の病状がいまひとつ良くないことを語ってしまう。
心配になったスズ子は大阪行きも叶わず悩んだ末相談に向かったのが羽鳥善一の自宅。
善一は留守だったが奥さんの麻里は子供たちと共に在宅。
彼女に自分の気持ちを素直に告白してみる。
どうすれば良いのだろうか?と。
麻里は自分の夫との事でも似たような経験をしてきたらしい。
男はいざと言うときには思いのほか役に立たない。
自分の不安な気持ちを励ましてくれたのはほかならぬお腹の中の子供だったと。
スズ子は話せたことで多少の安心感を持つことができた。
しかし、愛助の病状はどうやら末期と思われた。
目次
スズ子の心配事
既に産休に入っているスズ子にとってはあと子供が生まれてくることに備えるだけ。
それでもスズ子は決して晴れることのない悩みを抱き続けていた。
それは他ならぬ愛助のこと。
から来る手紙は、やがてはがきになり、文章もいつも代わり映えしない。
「だんだん良くなっているから大丈夫」ではかえって心配するではないか?
診察の最中も浮かない顔をしているので、医者の方がかえって心配になって尋ねてくる。
何か心配事でも?
東看護師が気をきかせてすぐに話しかける。
大阪のご主人の事ですね。
全く反論しないスズ子。
愛助の様子を確かめるために大阪まで行ってきたいと申し出るが、さすがにそこは許可してもらえない。。
既に5月に差し掛かっていて、後は10日ほどで赤ちゃんが生まれてくるのを待つばかり。
さすがに諦めざるを得なかった。
山下と坂口の隠し事
坂口はともかく山下は大阪に赴いていて愛助の詳しい様子も把握していて、なんとなくスズ子には隠し事があるような雰囲気。
物語のこの辺の内容は、実に切ないものがある。
本当はきちんと説明して話をすべきところだが、愛助は心配をかけたくないあまりスズ子には事実をひた隠しにして、大丈夫とだけ連絡していた。
愛助の切ない気持ちもよくわかり、スズ子が心配でたまらないこともよく承知。
山下にとっても心苦しいばかり。
どうしても詳しい事情を知りたいと食い下がるスズ子。
つい山下の口が滑ってしまう。
実際は思ったほど良くは無い。
ただ、心配させたくないので大丈夫とだけ伝えてくれと厳しく言い含められている。
必ず良くなるので、今は待っていてほしいとだけ。
ある程度の事情は飲み込むことのできたスズ子だったが、心配事が完全になくなったわけではない。
大阪へ行くこともままならない。
どうすればいいんだろうかと悩んだあげく、足の向かった先は羽鳥善一の住まい。
羽鳥麻里とのやりとり
スズ子の悩んでいる様子で事情を察した麻里。
スズ子が愛助のことが心配なあまり、ずいぶん苦しんでいる様子。
これから子供が生まれる時に心配事があったのでは心だけでなく体にも良くは無い。
麻里は自分が長男を出産したときのことを引き合いに出して、スズ子を慰めていた。
夫はいざと言うときには思いのほか頼りにならない。
私を励ましてくれたのはお腹の中の子供。
今は生まれてくる子供のことに集中して暮らすほか無いのでは。
麻里の適切なアドバイスで多少なりの安心感を得たスズ子。
物語の時間軸は、昭和22年5月。
愛助が亡くなる直前と思われる。
彼が亡くなった11日後にスズ子は出産することになるので。
愛助の真実
物語の中で描かれた愛助には悲壮感が漂っていた。
相変わらずの喀血は著しく体力を奪っていく。
矢崎秘書室長が結婚の事はともかく、スズ子と面会することを提案。
納得仕掛けた母親トミに愛助は、「絶対にダメだ‼️」と1歩も引き下がらない。
こんな姿を見せてしまっては、心配をかけるだけ。
自分は必ず病気を治してスズ子さんと会う。
子供もこの手に抱きかかえて一緒に遊ぶんだと。
死に行く者の願いとして、あまりに切ない。
モデルの笠置シズ子のエピソードがそのまま踏襲されているが、運命の冷酷さが否応なく伝わってくる。