今週からは、寅子の人生において原点とも言うべき体験が綴られる。
物語の展開するスピードはほぼ駆け足。
先週始まった太平洋戦争は今週終戦を迎えることになった。
歴史にも伝わる戦争中の様々なエピソードが物語の中の出来事とカブる。
猪爪家は父親直言と母親はるが登戸に残り、花江と寅子だけが子供たちと共に疎開。
家族の安全や自宅の事など、様々なことを考えればこういった行動を取った人たちは大勢いたはず。
冒頭で描かれたのは昭和20年3月10日の東京大空襲。
この時だけで10万人近い人たちが亡くなっている。
物語の中の疎開はこの事件をきっかけに行われたようだ。
しかし、物語はそれだけでは済まない。
最初にやってきたのは猪爪家の長男直道の戦死報告。
当時の大勢がそうだったように紙切れ1枚で戦死を告げただけのもの。
子供の頃聞かされた記憶では、故人となった人の遺品と呼べるものが届けられたりすることもあったようだ。
遺品が添えられない場合は、亡くなった場所の土とか石とか様々なものを代わりに持ち帰っていたんだと聞いた。
虎に翼では報告書1通のみ。
とにかく大勢なくなっていて様々な手続きだけで役所も手一杯だった事は容易に想像できる。
たった1つ嬉しいニュースも。
それは岡山の学校に通っていた下の弟直明が帰還した
ほとんど学校には通えていなかったとのこと。
彼は帝大を目標にするほどの才人。
しかし、学校にはいかず仕事をすると語る。
終戦直後で家族の生活もままならない時、“働いて家族を支えたい”と告げる気持ちを「健気」だけで済ませるにはあまりに切ない。
目次
東京大空襲からの疎開
東京大空襲に限らず全国至る所の都市は空襲の被害を被った。
調べたところでは、人口5万人以上の都市が対象になっていたらしい。
さらにマンハッタン計画の後は原爆投下の候補地もいくつか。
およそ勝てるなどと言う戦争ではなかった。
東京では地方に疎開する人が多かった事実が。
東京にいたのでは田舎と違って食料の調達がままならない。
物語の中では小さな魚の料理が食卓に並んでいたがあれらは皆配給。
家族が食べる分の食料は自分で賄うか狩猟するか。
自給自足まがいのことをするには東京は条件が悪いかもしれない。
そうなれば田舎の方がまだ生活しやすかったかも。
生き残った者 犠牲になった者
花江と寅子の疎開先までやってきた直言。
知らせる方も知らされる方も拷問に等しかっただろう。
花江がその場に泣き崩れるのもうなずける。
いろんな役者の泣き叫ぶシーンは数限りなく見てきたが、花江を演じた森田望里の演技は涙をこぼすタイミングと言い申し分なかったように感じた。
彼女を初めて見かけたのは同じ朝ドラの「おかえりモネ」の時だったと思う。
存在感のある女優という印象。
あの時とは全く違うキャラクターで登場。
最近では映画でも主役を張っていると聞いている。
荒れ野原の東京
物語は容赦なく進んで終戦を迎えた。
荒れ野原の東京は見る影もない。
東京に戻ってきた寅子はかつての同僚よねのいた店の前までやってきた。
そこで聞かされたのは店の人たちは皆空襲で亡くなったとのこと。
物語の中で語られていたけど花江の両親も空襲の時に亡くなったようだ。
この時代の物語を描けば数え切れないほどの人がなくなる場面を描かざるを得ない。
ナレーションで登場人物が亡くなっていくのは、時代とは言え切なく悲しいね。
この先の物語の展開がいまひとつ読めないが、今回死亡したか行方不明とされる人たちが、この先物語に登場する可能性がゼロとは言えないんじゃないか。
忘れた頃に戦争から戻った話も山ほどあったように記憶する。
物語の展開次第と言うところか。
未来に向かうために
猪爪家では直明1人だけが生き残ったようだ。
彼は、岡山の高等学校で帝大受験の準備をしているはずだったが、ほとんど勉強らしいことはできなかったと語っていたね。
当時は様々な作業で勉強どころじゃなかったはずだから。
戦争中の日本の経済は軍によるところが大きかっただろう。
特に品物を軍に収めるようなところは仕事が激減するかなくなってしまうか。
火薬を扱う会社だった登戸火工は従業員全員に暇を出して閉鎖するしかなさそう。
戦争あるあると言ってしまえばそれまで。
虎に翼がこれから描かればならない事は寅子の法律家としての活動がどんなふうに再開されるか。
そして猪爪家の家族がこの先どんなふうになるのか。
直明は進学を諦めて、家族を支えるために働くと決意表明。
息子の言葉に甘えるしかなかった直言。
物語が描き出すテーマは逃げ場のない痛みとともに迫ってくる。